第五棺

未だ終らぬ我々の埋没the Color of monochrome

Ending... 1
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   ■シーンプレイヤー:繰鐘麗香◆

GM 光の奔流の中で、
意識が身体の器を離れ、
町中――日告市全体へ広がって行きます。

それは奇妙な感覚でした。

四季奏総合病院、秋土劇場、四季駅、日告駅、朝咲商店街、夜歌高等学校、梔子駅、叢雲寺――

街が、俯瞰による全体像から、細部に至るまで、把握できるのですから。

今、麗香さんはこの街のすべての個所に同時に存在していました――

――それは、街を支配しているということ。

今なら、望めば叶うだろう。
麗香 では願いを叶える前に、ヴェイルに全身で殴りかかった反動で、そのまま仰向けに倒れます。
倒れている間に、ひとつのことを願います。

『この町の人間にありとあらゆる苦しみと痛みを―――』

と、願いかけて。

地面に倒れこんで見えた光景に、ふと昔のことを思い出します。
在りし日の夜歌高校。校庭の芝生の坂。

結花「はぁ〜、やっぱし青空って気持ちいいね!」
二人で寝そべって青空を見ていたときのことを。
麗香「……そうですわね」
灰色が訪れる前の、穏やかで優しかった世界のことを。
結花「ずっと、こんな日が続いていけばいいね」

そして、いま。

麗香「ずっと、こんな日が……」
背後からの尚くんの一撃で死にいく麗香の視界。

あのときのように寝そべって見上げた空は、灰色なんかではなくたしかに青色で―――
それを掴もうと、手を伸ばす。

麗香「せめて、この『青空』を―――」

GM ―― キン 

光の雫が、麗香さんから天へ向かってひとつ――まるで逆向きに落ちていくかのように、登っていきます。

ぽつ……っ

波紋が空へ広がって行くように――
灰色の、鬱屈な空が波打ち――
渦巻くように、空が青色に変わっていきます。

ふわ ぁああ  ぁあああああ あ ――  !

懐かしき――かつて見た――当たり前の――  ――
麗香 青くなりゆく空を見上げていると、その視界に、ふと新垣尚を捉えます

『この町から出たい』

ふざけた口調の、新垣尚の言葉。
でも、それなりの付き合いのある新垣尚だからこそ、それが本心なのだとなんとなく理解できた。

だから―――

GM ――とさり、と、 麗香さんが倒れたのが、尚君から見えます。
仰向けに。

そして、広がる――かつてのような青空。
まるで、この街を覆うヴェイルが消えたのかのように見えますが
尚君は、これはエンジェルハィロゥによる投影だろうと――分析できます。

即ち、状況は何も変わっていない。

そのはずなのに。

降り注ぐ光は、とても優しく、こんな閉塞した街なのに――
――何故か、清々しさを感じさせてくれます。
「『すば〜らしーいーあっさがっ来った、希望〜のー朝〜が♪』ってか」調子っぱずれの声で歌う。
「希望もずいぶんお安くなったもんだ」
「…ま、金持ちしか買えない希望よりはいいか…」
GM そして、明るい光に照らされた周囲を見渡すと、
すっかりおなじみとなった――元人間のジャーム達が、
周囲に迫っているのが見えますね。

――否。

迫っていた、と言うべきでしょうか。
彼らは、彫像のように動きません。
にゃろー。頭に“肉”って書いてやろうか。
GM (笑)
などと思ってると、そのジャーム達のさらに向こう。

是色や麗香が倒れたままの向こう側――黒き霧の壁

その一か所が割れるように開くのが見えます。
一陣の風が、内側から外へ向かって吹きぬけます。
反射的に走り出す。
それがどこへ繋がっているのか…、いや、そもそも、どこかへ繋がっているのかもわからなかったけれど。

「ウウウウウォォォォォォォァァァァァァァァァ!!」

狂った獣のように叫びながら走り続ける。
GM ――

 ――

彼が走り抜けた路上。
今や、その隙間も閉じ――
青空の下、静寂が広がっています。

倒れていた四季奏是色が、むくり、と、起き上がると、
仰向けになったままの繰鐘麗香に近づきます。

目を開いたまま、薄く微笑む麗香の表情を見て、
天を見上げ。
それから、もう一度、麗香の方を見て。

是色「――     、      」

何かを言って――、心底、嬉しそうにほほ笑みました。

  さらり、さらり……。

足もとで、繰鐘麗香の精神を支えた肉体が――崩れて。
風にさらわれ、街に散っていきます。


塵は塵に――灰は、灰に。






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