GM |
光の奔流の中で、 意識が身体の器を離れ、 町中――日告市全体へ広がって行きます。 それは奇妙な感覚でした。 四季奏総合病院、秋土劇場、四季駅、日告駅、朝咲商店街、夜歌高等学校、梔子駅、叢雲寺―― 街が、俯瞰による全体像から、細部に至るまで、把握できるのですから。 今、麗香さんはこの街のすべての個所に同時に存在していました―― ――それは、街を支配しているということ。 今なら、望めば叶うだろう。 |
麗香 |
では願いを叶える前に、ヴェイルに全身で殴りかかった反動で、そのまま仰向けに倒れます。 倒れている間に、ひとつのことを願います。 『この町の人間にありとあらゆる苦しみと痛みを―――』 と、願いかけて。 地面に倒れこんで見えた光景に、ふと昔のことを思い出します。 在りし日の夜歌高校。校庭の芝生の坂。 結花「はぁ~、やっぱし青空って気持ちいいね!」 二人で寝そべって青空を見ていたときのことを。 麗香「……そうですわね」 灰色が訪れる前の、穏やかで優しかった世界のことを。 結花「ずっと、こんな日が続いていけばいいね」 そして、いま。 麗香「ずっと、こんな日が……」 背後からの尚くんの一撃で死にいく麗香の視界。 あのときのように寝そべって見上げた空は、灰色なんかではなくたしかに青色で――― それを掴もうと、手を伸ばす。 麗香「せめて、この『青空』を―――」 |
GM |
―― キン 光の雫が、麗香さんから天へ向かってひとつ――まるで逆向きに落ちていくかのように、登っていきます。 ぽつ……っ 波紋が空へ広がって行くように―― 灰色の、鬱屈な空が波打ち―― 渦巻くように、空が青色に変わっていきます。 ふわ ぁああ ぁあああああ あ ―― ! 懐かしき――かつて見た――当たり前の―― 空 ―― |
麗香 |
青くなりゆく空を見上げていると、その視界に、ふと新垣尚を捉えます 『この町から出たい』 ふざけた口調の、新垣尚の言葉。 でも、それなりの付き合いのある新垣尚だからこそ、それが本心なのだとなんとなく理解できた。 だから――― |
GM |
――とさり、と、 麗香さんが倒れたのが、尚君から見えます。 仰向けに。 そして、広がる――かつてのような青空。 まるで、この街を覆うヴェイルが消えたのかのように見えますが 尚君は、これはエンジェルハィロゥによる投影だろうと――分析できます。 即ち、状況は何も変わっていない。 そのはずなのに。 降り注ぐ光は、とても優しく、こんな閉塞した街なのに―― ――何故か、清々しさを感じさせてくれます。 |
尚 |
「『すば~らしーいーあっさがっ来った、希望~のー朝~が♪』ってか」調子っぱずれの声で歌う。 「希望もずいぶんお安くなったもんだ」 「…ま、金持ちしか買えない希望よりはいいか…」 |
GM |
そして、明るい光に照らされた周囲を見渡すと、 すっかりおなじみとなった――元人間のジャーム達が、 周囲に迫っているのが見えますね。 ――否。 迫っていた、と言うべきでしょうか。 彼らは、彫像のように動きません。 |
尚 | にゃろー。頭に“肉”って書いてやろうか。 |
GM |
(笑) などと思ってると、そのジャーム達のさらに向こう。 是色や麗香が倒れたままの向こう側――黒き霧の壁 その一か所が割れるように開くのが見えます。 一陣の風が、内側から外へ向かって吹きぬけます。 |
尚 |
反射的に走り出す。 それがどこへ繋がっているのか…、いや、そもそも、どこかへ繋がっているのかもわからなかったけれど。 「ウウウウウォォォォォォォァァァァァァァァァ!!」 狂った獣のように叫びながら走り続ける。 |
GM |
―― ―― 彼が走り抜けた路上。 今や、その隙間も閉じ―― 青空の下、静寂が広がっています。 倒れていた四季奏是色が、むくり、と、起き上がると、 仰向けになったままの繰鐘麗香に近づきます。 目を開いたまま、薄く微笑む麗香の表情を見て、 天を見上げ。 それから、もう一度、麗香の方を見て。 是色「―― 、 」 何かを言って――、心底、嬉しそうにほほ笑みました。 さらり、さらり……。 足もとで、繰鐘麗香の精神を支えた肉体が――崩れて。 風にさらわれ、街に散っていきます。 塵は塵に――灰は、灰に。 |