第五棺

未だ終らぬ我々の埋没the Color of monochrome

Ending... 2
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   ■シーンプレイヤー:新垣尚◆

GM 尚君、どうぞ。
演出初めていい?
GM どうぞ。お願いします。



『お前はもう完全に包囲されているーッ!』
乱暴にドアを叩くジャームが日本語を喋れたら、そう言っていただろう。

某国、核ミサイル貯蔵施設。

施設のほとんどは地下に埋まっているため、地上に出ている部分は、その鼻先だけだったが、
その周囲一帯は、気分が悪くなるような数の化け物に覆い尽くされていた。
俺は、非常電源を使ってようやく明かりの戻った地下のコントロールルームに陣取り、監視カメラごしに、その光景をじっと眺めていた。

「さすがに年貢の納め時か」

あれから何年経ったのだろうか。
アゴには無精髭が伸びに伸び、髪には白いものが混じっている。
日告市を脱出し、船を確保し、大陸に渡って奇跡的にこの施設を見つけることはできたが、さすがに発射コードの解読までは手が回らなかった。
…まあ、荒れた旧軍施設や政府施設を手当たり次第にひっくり返してかつての最重要機密を発見するなど、元々無茶な話ではあったが。

「さて…、それじゃあ、ついにUGNマニュアルNo56を実行する事にしますか」

UGNマニュアルNo56。それはマニュアルにおける最後のページにして、最後の教則。
そこには、『確実に“もうダメだ”とわかったらどうすればいいか』が書かれている。

そういって俺は司令室を出、しばらく歩いて別の部屋に入る。
そこは司令官の私室だったようで、コンピューターや洗面所、コンロにレンジに冷蔵庫、そこそこ豪華なベッド、テーブルなどの調度品が備え付けられていた。
俺は、背負っていたバッグを肩からおろし、ひとまずベッドに横になった。

「ふわぁ…、疲れた」

俺はバッグを開け、中からまず、大きなビンを取り出す。
GM ほほう。それは?
ラベルには、見慣れない言語で書かれた文字が踊っている。
しかし、キャップを開けると、芳醇なアルコールの香りが漂ってくる。
それは、世が世だったら、軽く百万円はするだろう高級酒だった。

続いてバッグからグラスを出し、のんびりと酒を注ぐ。
幸いこの部屋には冷蔵庫もあるから、準備ができたら氷を入れよう。
だがその前に、グラスを揺すって、まずは香りを楽しむ。

“神の雫”の登場人物になった気分だ。

バッグの中には他に、チーズやクラコットが入っている。
シケってないか心配だが、クラコットの程良い塩味と、チーズの滑らかさは、酒とすばらしくよく合う。
キャビアの缶詰などもあるが、まずはチーズだ。食べたいものから食べるとしよう。

俺はポケットに入れていた携帯電話――もっとも、受信側のアンテナが存在しないので、既に半分目覚ましと化している――を取り出し、
データフォルダの中から音楽ファイルを呼び出すと、全曲連続再生の指示を入れた。
長い間聞いていなかった、故郷の言葉で、かつて流行ったポップスの軽快なメロディーが流れ始める。

「ふぅーっ…」

俺は、穴が開いた靴を適当に脱いで床にぶんなげると、ふかふかのベッドの上で脚を組みなおし、深い溜め息を吐いた。

もう何ヶ月も野宿を続けたせいで、服は袖から肩口まで裂け、泥にまみれている。
縄文時代の貫頭衣を汚したような状態だ。
頭にはシラミが沸いてひどいことになっている。

そんな状態で―――

俺は体を起こすと、冷蔵庫から氷を取り出し、グラスに入れた。

歌謡曲にあわせ、からん、という涼しげな音が響く。

俺は、空中に向かってグラスを差し上げ…


「―――我が人生に乾杯」


       そのまま一気に、ぐいっと酒を飲みこんだ。




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