第四棺

唯麗しきあの人の埋没the Vale of monochrome

Ending... 2
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   ■シーンプレイヤー:荒垣尚◆

GM では、どこからスタートが良いですか?
せっかくさっき「階段下りられるの?」と言われたことだし、病院の階段の前でどうだろう。
GM 了解しました。
結花 結花はおきていたほうがいいですか?
尚くん
話しかけたかったら好きに話しかけてくれ、って感じかなぁ
今からやるのは本当に短い、
ただの決意表明みたいなシーンだから。
たぶんこちらから何か話しかけることはないと思う。
結花 了解です
GM 麗香さんは、「早乙女さんを支えるので手いっぱいです、申し訳御座いません」と先に降りた、ということで?
どうだろう。屋上にまだいるか、先に下に降りたか。
GM では、とりあえず先に降りたということで。
残ったメンツ的に、休み休み帰るのが得策でしょうし。
1階までとりあえず早乙女さんを連れていき、尚君が苦労してるようなら往復しよう、と
麗香さんは考えたということで。
了解。
じゃ、戦闘でフレームの歪んだ車椅子を走らせ、階段の前で立ち尽くす。
金属が触れ合う、ギコギコという音がずいぶん耳障りだ。

「…めんどくせぇ」

思い返せば、脚を無くしてからは青藍さんに運んでもらい、支部についてからは仁也のおっちゃんに運んでもらい。
前に、自分で“0歳児に戻った”と言った通り、おんぶにだっこの道程だった。

「いやいや…、なんていうか。一回依存しちまうと、自分で歩くのが面倒になるねぇ」

そう言って、階段の下を見つめる。
照明の壊れた通路は、とても暗い。
まるでその先は、あの世にでも繋がっているんじゃないか、とも思える。

「まあ、ある意味、この世の地獄なんだけどな」

そう言って、俺は、背中から拳銃を取りだす。
灯と充とチームを組んでいた時から持っていた、護身用の拳銃…
もっとも、銃の扱いはへたくそなので、これまで、お守り以外の役割はなかった。…たった一つの例外を除けば。
俺は、拳銃の弾倉に弾がこめられていることを確認し、銃口をゆっくりと自分のこめかみにあてる。

「青藍さんが言っていた理論が正しければ――」
「レネゲイドの再生能力を利用し、脳自体をリセット。これにより、再生限界を戻し、失われた肉体を再構築することも可能なはずだ――」

もちろん、可能じゃなかったら死ぬ。
と言うより、少しでも“ここで死んでもいいや”と思っていたら、本当に死ぬ。そんな気がしていた。
しかし、先ほどの通信の内容。今の状態。
もう頼れる相手はいない。
誰もが、自分のことで精一杯。…これからは、自分のことは自分でやらなくてはならない。
今ならまだ引き金を引く力くらいはある。もし弾が不発でも、代わりになるものを探す程度の余力は残っている。今は、まだ。
…死ぬにしろ生きるにしろ、選ぶとすれば、これが最後のチャンスだった。
今、俺は、試されていた。自分自身を。

「…問題ないさ」

「俺は、俺を手に入れる」

「俺の手足も、俺の魂も、俺の過去も、俺の未来も…全部、俺のものだ」

「俺は、俺の手で! 他のなんでもない…俺自身になるッ!!」

引き金を引いた。



十数分後。
後には、横倒しになった車椅子だけが置き去りにされている。
人影は無い。カラカラと寂しく回る車輪が、だんだんと回転の速度を落としていって…やがて、止まった。
その向こうには、下へと下る階段と、その向こうの――真っ暗な闇が、口をあけているだけだった。




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