第三棺

尊く懸命な輝きの埋没the Twinkle of monochrome

Ending... 4
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   ■シーンプレイヤー:雪吹灯・新垣尚◆

GM 灯さんに移しましょう。
うーい
じゃあ、前に言っていた通り、走っている列車の中でお願いしたい。
GM では、シーンを開始しますが。何かこちらで入口作りますか?
ああ、いや、大丈夫。
まあ、やることは決まってるので…
ひとり舞台で申し訳ないが。
GM はい。
では、シーンを開始します。
どうぞ。



「………どういう…こと?」

列車の中。窓から外を眺める尚の背中に、そう問いかける。

「兄さんは?」

―――何故、列車に乗っていないのか。

「……」

何も答えないのが、答えだった。充を見捨てて、尚たちは逃げた…。状況はどうあれ、それは事実だった。

「…そう。わかった」
「発信機…あるんでしょ? 出して」

顔色を変えずに、ぽつりぽつりと。しかし淀みなく言う。

「もう捨てたよ」そこでようやく振り向く。しかし、視線は合わせない。
「…ウソ」と言い、尚がずっと持っていた文庫本を取り出して「私にはわかる」
「《サイコメトリー》か…」不満そうに、顔にしわを寄せる。
「馬鹿」無表情で続ける。「付き合い、長いから」そう言って…木刀を、正眼に構える。
「“殺してでも奪い取る”ってか? 泣けるね」

表情で嘘だと気づかれた、自分の浅はかさに、心の中で毒づきながら、強がって茶化す。
だが、そんな虚勢には、何の意味も無かった。

「もう一度だけ言う。渡して」まったく変わらぬ顔で、調子を強める、灯。
「止める理由は、無いはず」
「ああ…、そうかもな」

確かに、ここで灯がいなくなれば、これから戦いにくくはなるが、しかし同時に、灯個人の意思を尊重するのが新垣小隊のポリシーだったはずだ。
第一、尚には直接戦闘能力は無い。まともに灯とやりあえば、まず勝ち目は無い。
もし発信機を壊しても、灯のモルフェウス能力を使えば修復できる。
結局のところ、選択肢はひとつしかない。そのはずだった。

「じゃあ…もっていけよ」胸ポケットから、小指サイズの小さな物体…最新式の軍用発信機を取り出して。

…それを、ぱくっ、ごくんと口から飲む。

「俺の腹をかっさぱいてな」
「………」灯は何も言わない。が、俺を睨みつけるその視線には、他の何をも寄せ付けない、何かが浮かんでいた。

UGNの経験が長い俺には、わかった。灯は、ジャーム化しかけている。

(ジャーム一匹くらい、素直に行かせてやればいいじゃないか。どうでもいい…)

心の中で、もう一人の尚がそう囁く。だがしかし、それは、どうしてもできなかった。
灯が、あの森のようなジャームの群れに吸収されるのが嫌だったのか。
それとも、どうあっても充を探しにいくという、灯の気持ちに、嫉妬を覚えていたのか。それはわからない。
別に、好きだったわけでもないのに。
といより、失ったものが大きすぎて。
心のどこかで、お互いが、大切な存在になるのを避けていた。
だから、死んでも、どうってことない。
…そのはず、だったのに。

………。

思えば、俺と灯は似たもの同士だった。違うところといえば、俺は自分さえいればよく、灯は充さえいればよかった。
二人はそれだけの関係だった。それだけでいいと思っていた。だから、こうなったのかもしれない。

「…なら、そうする」予備動作も無しに木刀を突き出す。

それは尚の胴体ごと、背後の壁を貫き、列車に巨大な風穴を開けた。

GM ずばんっ。

そして尚は…木刀ごと、灯につかみかかり、倒れこむ… 列車の外へと。
灯はあわてて重力を操作し、線路の上スレスレで宙に留まるが、そこで尚が、全体重をかけて灯を車輪の下ヘと押し込む。
下手をすれば二人ともミンチになるというのに、ためらわず。
荒れ狂う暴風と轟音の中、空中でつかみ合い、額を突きつけあう二人。
昼メロの恋人のように抱き合った体勢で、二人は、顔を赤くしながら、殺しあっていた。

「笑える話だ…」風によって、掠れて聞こえない声を垂れ流し。
「いつかお前と殺しあうんじゃないかと思って、距離を置いていたら、果てまで来ちまった」

ぐりぐりと、灯の頭を車輪へ押し付けながら。

「思うんだよ。もっと早く、勇気を出してれば、こうはならなかったかも、って…。いや…わかんねぇけど、でも…」
「帰りてぇなぁ。…帰れねぇなぁ…」

………。

それを見た灯は。
まるで… ふと、自分達が争っていた理由が、“冷蔵庫のプリンを食べたか、食べないか”みたいな、どうでもいいことだと気づいた時のような。
きょとんとした、けれど呆れたような顔をして、かすかに笑い…

「……」嵐の中、何かを呟いて。

すとんとあっけなく、車輪の下に消えた。

GM  ―――― 






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