GM | 灯さんに移しましょう。 |
尚 |
うーい じゃあ、前に言っていた通り、走っている列車の中でお願いしたい。 |
GM | では、シーンを開始しますが。何かこちらで入口作りますか? |
尚 |
ああ、いや、大丈夫。 まあ、やることは決まってるので… ひとり舞台で申し訳ないが。 |
GM |
はい。 では、シーンを開始します。 どうぞ。 |
尚 |
灯「………どういう…こと?」 列車の中。窓から外を眺める尚の背中に、そう問いかける。 灯「兄さんは?」 ―――何故、列車に乗っていないのか。 尚「……」 何も答えないのが、答えだった。充を見捨てて、尚たちは逃げた…。状況はどうあれ、それは事実だった。 灯「…そう。わかった」 灯「発信機…あるんでしょ? 出して」 顔色を変えずに、ぽつりぽつりと。しかし淀みなく言う。 尚「もう捨てたよ」そこでようやく振り向く。しかし、視線は合わせない。 灯「…ウソ」と言い、尚がずっと持っていた文庫本を取り出して「私にはわかる」 尚「《サイコメトリー》か…」不満そうに、顔にしわを寄せる。 灯「馬鹿」無表情で続ける。「付き合い、長いから」そう言って…木刀を、正眼に構える。 尚「“殺してでも奪い取る”ってか? 泣けるね」 表情で嘘だと気づかれた、自分の浅はかさに、心の中で毒づきながら、強がって茶化す。 だが、そんな虚勢には、何の意味も無かった。 灯「もう一度だけ言う。渡して」まったく変わらぬ顔で、調子を強める、灯。 灯「止める理由は、無いはず」 尚「ああ…、そうかもな」 確かに、ここで灯がいなくなれば、これから戦いにくくはなるが、しかし同時に、灯個人の意思を尊重するのが新垣小隊のポリシーだったはずだ。 第一、尚には直接戦闘能力は無い。まともに灯とやりあえば、まず勝ち目は無い。 もし発信機を壊しても、灯のモルフェウス能力を使えば修復できる。 結局のところ、選択肢はひとつしかない。そのはずだった。 尚「じゃあ…もっていけよ」胸ポケットから、小指サイズの小さな物体…最新式の軍用発信機を取り出して。 …それを、ぱくっ、ごくんと口から飲む。 尚「俺の腹をかっさぱいてな」 灯「………」灯は何も言わない。が、俺を睨みつけるその視線には、他の何をも寄せ付けない、何かが浮かんでいた。 UGNの経験が長い俺には、わかった。灯は、ジャーム化しかけている。 (ジャーム一匹くらい、素直に行かせてやればいいじゃないか。どうでもいい…) 心の中で、もう一人の尚がそう囁く。だがしかし、それは、どうしてもできなかった。 灯が、あの森のようなジャームの群れに吸収されるのが嫌だったのか。 それとも、どうあっても充を探しにいくという、灯の気持ちに、嫉妬を覚えていたのか。それはわからない。 別に、好きだったわけでもないのに。 といより、失ったものが大きすぎて。 心のどこかで、お互いが、大切な存在になるのを避けていた。 だから、死んでも、どうってことない。 …そのはず、だったのに。 ………。 思えば、俺と灯は似たもの同士だった。違うところといえば、俺は自分さえいればよく、灯は充さえいればよかった。 二人はそれだけの関係だった。それだけでいいと思っていた。だから、こうなったのかもしれない。 灯「…なら、そうする」予備動作も無しに木刀を突き出す。 それは尚の胴体ごと、背後の壁を貫き、列車に巨大な風穴を開けた。 |
GM |
ずばんっ。 |
尚 |
そして尚は…木刀ごと、灯につかみかかり、倒れこむ… 列車の外へと。 灯はあわてて重力を操作し、線路の上スレスレで宙に留まるが、そこで尚が、全体重をかけて灯を車輪の下ヘと押し込む。 下手をすれば二人ともミンチになるというのに、ためらわず。 荒れ狂う暴風と轟音の中、空中でつかみ合い、額を突きつけあう二人。 昼メロの恋人のように抱き合った体勢で、二人は、顔を赤くしながら、殺しあっていた。 尚「笑える話だ…」風によって、掠れて聞こえない声を垂れ流し。 尚「いつかお前と殺しあうんじゃないかと思って、距離を置いていたら、果てまで来ちまった」 ぐりぐりと、灯の頭を車輪へ押し付けながら。 尚「思うんだよ。もっと早く、勇気を出してれば、こうはならなかったかも、って…。いや…わかんねぇけど、でも…」 尚「帰りてぇなぁ。…帰れねぇなぁ…」 ………。 それを見た灯は。 まるで… ふと、自分達が争っていた理由が、“冷蔵庫のプリンを食べたか、食べないか”みたいな、どうでもいいことだと気づいた時のような。 きょとんとした、けれど呆れたような顔をして、かすかに笑い… 灯「……」嵐の中、何かを呟いて。 すとんとあっけなく、車輪の下に消えた。 |
GM |
―――― |