第三棺

尊く懸命な輝きの埋没the Twinkle of monochrome

Middle Phase 8
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   ■シーンプレイヤー:早乙女結花◆

GM ◆カガヤキ倶楽部リーダー:葛西白狐郎
 
 俺の親父は、元警官だった。
 自然のお父さんと共に働いていたそうだ。
 しかし、とある事件。
 仲間の裏切り。
 親父は、警官をやめた。
 
 やめて、何をしたのかと言えば、
 しがない私立探偵のような仕事だった。
 依頼人の下らない話を、親身になったように聞いて、
 安い金で靴底をすり減らし、危険の矢面に立って、
 救いのない真実とやらをつきとめる。
 
 地味で、儲からない仕事を。
 淡々と消化するようにこなしていた。
 
 親父のくたびれた背中が、今も印象に残っている。
 
「お前の親父さんは、優秀な男なんだ」
 自然のお父さんは俺を慰めるように、そう言った。
「そして、立派な男だ。
 とばっちりを受けて仕事を辞めちまったが、
 俺なんかより、本当はずっと……」
 そんなことをよく言った。
 
 彼経由で、親父は仕事を貰うこともあった。
 だが、そういう時は決まって、親父はとりわけ安い金しか受け取らない。
 だから自然のお父さんは、俺にとって優しく尊敬できる大人で、
 親父を擦り減らす、災厄の神だった。
 
 そんな親父も病気で死んだ。
 あっけなく。
 母親は泣いてばかりだった。
 さめざめと。
 だから俺は、渋々、親父の後を継いだ。
 とりあえずそうするしか、なかったから。
 親父のコネと、親友のコネと、
 つたない自分の技能を使って。
 俺は俺の人生を裏切った。
 
 悶々とした日々。
 
 突然の終末。
 
 見慣れた街で、
 見慣れた生美が、
 見慣れた奴の死体を前に、
 泣いている。
 泣いている。
 泣かないでくれ。
 あんな毎日でも、大切だった。
 あんな過去でも、大事だった。
 それらが終わったのは、悲しい。
 それでも、泣かないでくれ。
 今泣いていたら、全て失う。
 
 そして俺を愛さないでくれ。
 
 俺は、親友を殺した男だ。
 生美の兄を殺した。
 しょうがない、というだけの理由で。
 思い知った。
 俺は、大事な物のために、別の何かを犠牲に出来る人間だ。
 裏切れる人間だ。
 親父が優先するべき物のために、あの人生を選んだように。
 母と息子を裏切ったように。
 だから、生美。
 いつか、何かのために、お前さえも犠牲にしてしまうかもしれない。
 それがいつも怖い。怖いんだ。
 
 お前まで裏切りたくはないから。
 俺達は、兄の親友と、親友の妹でしか、いられない。




潔癖症だな。
そんなに綺麗なままでいたいものか?
糸緒 普通はそうなると思うの
いい人ほど。
結花 長く生きれないヤツの典型だな……
なるほど、いい人は損だな。それとも進んで損をする奴のことをいい人と呼ぶのか。
GM さて。
それでは、結花さんのシーンです。
さっきのシーンに出ていた人は出られません。
結花 剛さんも?
GM はい。
結花 緊張するなぁ…
GM 登場浸食どうぞ。
ああ、汚染レベルは2です。
ダイス 11R+4 = [1,6,2,7,2,1,8,7,2,8,3]+4 = 12"
結花 じゃあ、あとは
ダイス 102+1D10 = 102+[1] = 103
GM おお。
糸緒 おめでとうです
結花 刻むなぁ、結花さん
ここぞというところでしぶといよな。結花。(笑)
糸緒 いいことなのですよ
結花 あ、あと、前回のシーンで可愛子にロイスとったことにしていいですか?
GM ん、どうぞ。
感情宣言して下さい。
結花 ルルブがない自分にまた…
表は庇護とかそこらへんで。
裏は近づきたくない感じ…な感情で。
糸緒 隔意か悔悟でいいんじゃないですか?
相容れない、あるいは、悪いことしちゃって悔やんでるって意味です
結花 悔悟いいですね。
悔悟にチェックをいれて…っと
GM では。
よろしいですかー。
結花 はーい


GM 結花さんは、朝食が終わって、みんなが会議に移る手前くらいに、是色にちょいちょいと呼ばれます。
結花 クリスタル泥棒の子猫ちゃんですね
どういう表現だ(笑)
GM 「早乙女さん、お散歩しよう」
結花 「えーと……」
ちょっと可愛子のほうを見て思案してから
「構いませんよ」
と答えます。
GM 是色「こっちこっち」
結花 では、いわれるままについて行ってみよう
GM 中庭――日当たりこそ今は悪いが、この状況からすると随分きれいな庭――が見える廊下を、
是色はのんびり歩いていきます。
てくてく、てくてくと。
結花 「綺麗ですねー」
GM 是色「うん」
結花 「町がこんなことになっちゃったなんて、本当に嘘みたいに……」
庭を見て呟きます
GM 是色「物事は」

いつかのように、気楽そうに。

是色「物事は曖昧だ」

是色「曖昧に生まれて、曖昧に死んでいく。何故なら、全てが確かであるのなら――生命というものは存在し得なかったから」

それは、世界が変貌を遂げた朝に、是色が呟いていた台詞。

結花 「たとえ、物事が曖昧だとしても…」
「それでも、結果はついてきちゃうんですよね」
「わたし、最近、行動には結果に対する責任が伴うって思ったんです」
なんと言っていいか、自分のなかでまとまらない結花さん。
GM 是色「ふむふむ」
中庭の景色を見つつ、玄関の方へ緩やかに歩いていきます。
是色「行動に、責任って言うと?」
結花 「………」
四季先輩の質問に
答えようかどうか、ちょっと迷ってから
わざとらしく大仰に
「ほらわたし、みんなに迷惑かけちゃったから」
「そのぶん、これからがんばらないと!」
GM 是色「ナルホ・ドナルドだね」
是色「でもさ、今さらだよね、そう言うのって」
半ば振りかえって、薄目で微笑みつつ、是色は言います。
長いまつげが、表情を意味深に見せています。
結花 「…たしかに、そうかもですね」
「わたしが始めからしっかりしていれば」
「笑窪ちゃんも、改悟くんも、誰も死ななくって済んだかもしれないのに…」
GM 是色「そんなことはないんじゃない?」
是色「彼らが死ななかったら、他の誰かが死んだだけじゃないかな」
結花 「例えば…わたしでしたり?」
GM 是色「そうかも」
結花 「……そのほうが良かったのかも」
小さく呟きます。
GM 是色「良しも悪しも無い。物事は曖昧だ――良い、悪いなんて、誰かにとっての都合だよ」
結花 「…冗談ですよ、冗談!」
「わたしだって、やっぱり死んじゃうのはごめんですし」
GM 是色「そう?」
是色「早乙女さんは、死んじゃうのはごめんだと思う?」
是色「生きていれば死ぬのは必然なのに」
結花 「だって、仲間を守れなくなっちゃいますから」
「剛先輩や灯ちゃん、尚くんに雪吹さんに…」
「もちろん、四季先輩もです」
GM 是色「守るって、誰かの代わりに傷つくってことかな」
ついつい、と、歩きながら。
是色「そうすると、誰かの傷を奪うことが守ること」
是色「誰かのせいにして死んでいくのが、守ること」
結花 「えーと…。たしかに、みんなを守ることで傷ついちゃうかもしれないですけど」
「それでも、仲間が傷つくのはイヤですから」
「わたしは、わたしに出来ることを精一杯やるだけです」
GM 是色「早乙女さんは」
是色「守ったことで弾劾されて糾弾されて否定されて拒否されて痛めつけられて貶められても、相手を仲間って呼べるのかな」
是色「ただ、『ありがとう』とか『君のお陰だよ』とか『居てくれないと困る』だとか――甘い言葉をかけてもらいたい――だけ、じゃないのかな」
玄関で止まって。
結花 「……可愛子ちゃんの、ことですか?」
「前は…、こんなことになっちゃう前は、たしかにそうだったかもです」
「人間、みんなで助けあうのが当たり前で」
「ケンカとかいがみ合いとかは、なにかの勘違い結果だと思ってました」
「人は、みんな仲良くできるんだ…って」
「そんな、馬鹿なこと考えてたから」
GM 是色「うん」
結花 「でも、いまは…」
GM 是色「今は?」
結花 「誰になんと言われたって、大事な人を守りたいんです」
GM 是色「そう」
結花 「すべてを救うことなんて無理で、みんなが仲良くすることなんて不可能で…」
「だから、わたしは四季先輩やみんなと一緒にいたい! わたしにとって大事なみんなだけでも、一生懸命に守りたい!」
「その結果、誰に恨まれたっていい。なにを犠牲にしたっていい」
「わたしは、大事な人たちを守りたいから」
「だから、守って拒否されたり、傷めつけられたりしちゃっても、納得できるかな」
「守りたいって、わたしの身勝手なんだもん」
GM 是色「そっか。ところで、早乙女さん」
是色「お墓は好き?」
振りかえって、そう尋ねます。
結花 「…お墓?」
GM 是色「お墓」
結花 「えーと…、それって誰のですか?」
GM 是色「叢雲寺はお寺だからね」
靴を履いて、出て行きます。
結花 外にですか?
GM はい。
結花 「そっ、それより四季先輩、どこまで行くんですか?」
「外は危ないですよ! 四季先輩」
呼びとめよう。先日の麗香さんの件でイヤというほど思い知ってるから
GM 是色「お寺の圏内だけ」
結花 「だったら、大丈夫ですけど…」
「それで、お墓…ですか?」
GM はい。
墓場。
結花 「好きでも…嫌いでもないですかね。お墓なんて意識したことなかったから、とくに考えたことがなかったと言いますか…」
GM 是色「早乙女さんのご家族って、どんな人達?」
山中家、輪島家……、並ぶお墓を撫でるようにして、是色は緩やかに歩きます。
結花 「……そういえば、父さんも母さんも」
「もう、生きてないかもしれないんですよね」
GM 是色「そうだねぇ」
結花 「町はこんな状況だし、化け物にみんななっちゃったし……」
そう言って、家族の死の実感が迫ってきて、泣きはじめます。
「自分のことで精一杯でいままで気にする余裕もなかったけど……」
「みんな、死んじゃったのかな……」
GM 是色「死」
是色「みんな、死んじゃったかもね」
ざくざく。
結花 「やっぱり、やっぱり…わたし」
「誰も失いたくない。なくしたくない」
「みんな死んじゃったなら、これ以上死ぬ人なんて見たくない…」
「…って、なにしてるんですか? 四季先輩」
GM ざくざく、と、敷き詰められた小石を踏んで、
とあるお墓を撫でてます。
つつつつ。
大きくて立派。
四季奏家。
結花 「このお墓は……?」
「四季先輩の…お墓?」
GM 是色「僕は生きてるよ」
そう言って、お墓を今度はつつつっと
舐めます。
結花 「えーと、四季先輩のおうちのお墓?」
GM ぺろりと舌をしまって。
是色「そう」
軽く手を合わせてから、お墓の上に腰かけますね。
結花 「えーと…わたしに、結婚相手として遺族に挨拶して欲しいとか…」
GM 是色「結婚したいの?」
結花 「そういうんじゃなくって」
「真面目な話なんですよね」
GM 是色「真面目かぁ」
目を閉じて、そよぐ、少し澱んだ風を感じるように。
是色「僕の真面目さって、何だろう」
そして、諳んじます。
是色「物事は曖昧だ」
是色「曖昧に生まれて、曖昧に死んでいく」
是色「何故なら、全てが確かであるなら――生命というものは存在し得なかったから」
是色「けれど、生命はシステムだ。生まれて、死んでいくシステムだ」
是色「生命を定義付けているのは、人の言葉だ――」
是色「――人は生命で、生命は言葉で、言葉は人のもので、曖昧に生まれ――曖昧に、死んで、逝く」
目を開いて、結花さんの方を見ますね。
是色「物事は曖昧だ。早乙女さん」
そして、首を傾げるように、お経をひと束取り出します。
是色「君が、人を守ろうとするなら、もっと死ぬ人を見ると思う」
是色「君が、死から目をそむければ、誰も守れないと思う」
是色「そして、ここのみんなは、死からの大脱走を企てている」
お経の端を緩めて。
ばらばらと、それがなびいて。
広がっていきます。
書かれている文字は、不思議にキラキラと輝いていますね。
結花 「その、お経は……?」
GM 是色「ここのみんなの頼みの綱、蜘蛛の糸――、“仮初(Area of Fake)”の名を冠する、レネゲイドクリスタル」
結花 「……頼みの綱?」
GM 是色「君達の命運を握る鍵だよ」
結花 「…………?」
GM 底の見えない微笑みで、彼女は言います。
結花 いまいち結花さんは事情を把握できていません
GM 是色「物事は曖昧で、灰色のこの街で」
是色「君が君らしく仲間を守りたいと決めたみたいに」
是色「僕は僕らしく、救おうって決めたんだよ」
結花 「それって、どういう……」
GM 是色「……」
二コリと微笑んで。
すすすっ、と、教を撫でます。
き――
 ぃぃん
 
 
光がほとばしり――
 
 
―――――――― バリン。
 
何かが崩れる音を、聞いた気がしました。
結花 「いまのは……?」
崩れた音に、当たりを見回します。
GM   っ、 どさっ。
是色が、墓石から落っこちます。
結花 「四季先輩っ!?」
駆け寄ります。
GM がら
  がらら
と。
周囲で不穏な音がし始め……
嫌な空気が侵入して来るのを感じますね。
結花 「四季…先輩?」
疑惑の眼差しで、先輩を見ます。
「なに…したの? 先輩が…やったの?」
GM 是色は、意識を失っています。
お経を持ったまま。
結花 「ちがう…違うよね……」
と言って、先輩を抱え上げたい
GM どうぞ。
急速に感じ始める焦燥感。
結花 「みんなが…、みんなが危ない!」
と、みんなのところに帰ろうとすると…
GM というあたりで、シーンカット。
よろしいですか?
よろしければ、マスターシーンを流します。
結花 いいですよー
糸緒 どうぞです
GM はい。



◆四季奏是色について、その一。
 
 鬼才である四季奏一切と、
 その妻、四季奏十色の娘、
 四季奏是色は、特殊な子だった。
 彼女が幼い頃から、
 周辺では不思議な現象が絶えなかった。
 
 居たはずの場所に居ない、
 居るはずのない場所に居る。
 そんなことはしょっちゅうで、
 当然、「オーヴァード」なのだろうと予測されていた。
 
 しかし、奇妙なことに。
 レネゲイドチェッカーを通してみても、
 彼女の浸食率は0%だった。
 いや、厳密には0%ではない。
 たまにそれ以上を記録することもあった。
 
 さりとて、オーヴァードなのかと言えば。
 0%に戻ってしまうので、そうとも言い切れない。
 覚醒しかけの、不安定な未覚醒症例なのかと言うと。
 その割に、暴走する様子も見えず使いこなしているようで。
 他に類も例も見ない、奇妙な存在だった。
 
 彼女の父親にして、担当医にして、
 研究責任者である四季奏一切は、こう仮説を立てた。
 
「四季奏是色には、『衝動』が無い。
 そして、レネゲイドウィルスに『覚醒』する必要も無い。
 即ち、レネゲイドウィルスを、ある意味では完全に――
 ――コントロールしているのだ」
 
 解放志向やら吸血欲求やら飢餓意識やら殺戮願望やら、
 破壊本能やら加虐趣味やら嫌悪感覚やら闘争志望やら、
 妄想暴走やら自傷傾向やら恐怖記憶やら憎悪感情やら、
 レネゲイドウィルスによる衝動の扇動に屈しはしない。
 
 そして、
 死ぬでも憤怒を抱くでも素体にされるでも感染するでも、
 渇望するでも無知のままにでも犠牲を払うでも命令されるでも、
 忘却してしまうでも探求せずとも償いを意識せずとも生誕のままでも、
 それら契機など持っていなくとも、
 使いたければレネゲイドウィルスを叩き起こし、
 必要無ければレネゲイドウィルスを沈黙させる、
 任意のタイミングでオーヴァードに覚醒出来てしまう存在。
 
 “彩める空(monotone sky)”
 四季奏是色は、そう呼ばれていた。





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