Double Cross the Reverse...  「逆巻き琴線――喪失ひ旋律」
Middle.
   

     生きることに元気だね。      行うことに楽しむことに、感じることに表すことに、      進むことに愉しむことに、触れることに示すことに、      とにかく元気だ。      殺すことにも、      そして勿論、死ぬことにも。           GM  なれた臭い。なれた匂い。     慣れ親しんだ、身に染み込んだ、そのにおい。     血。     臓物。     人の死骸。     肌のあちらこちらに、ぬめつく感触。     他人の内臓に――内側に     埋もれている。     不快な感触。     暗闇の中で、瞼を開く。 姫巳  (判定中……)→侵食率10%低下。     目を、開く。そして、見回す。 GM  何かに     埋もれてます。     ぬめっと、ぬらっと、ぬるぬると、している。     それほどの圧力ではありません。     上のほうに光も見えます。 姫巳  思い出す。何故、このような状況に? GM  いや。     思い出せる事は特に無い。     強いて言うのなら――音色。     ♪ ♪ 、♪♪♪、 …… ♪、 GM  どこか歪な、今も頭の片隅で、     何処からともなく、何処へ行くとも知れず、     聞こえてくるオルゴールの音色。     それだけだ。     とりあえず、息を吸うごとに、自らの犯してきた罪悪のようなその臭いが、肺腑を抉ります。 姫巳  「・・・」見開いた目の盲目の視界、何かに眼球が触れる刺激。     混濁する記憶。     肺腑を満たし、頭脳を浸す、この臭気。     身体を覆うぬめり・・・     拷問を受けているような「居られなさ」と、入浴をしているかのような「浸り」が、相反して身体を包む。     「・・・」無言のまま、何とか身体を起し、手を掲げ、瞳を拭う・・・ GM  むくっと、起き上がると、     何処かの豪華な部屋です。 姫巳  ぬぐっても、手も同じもので覆われているだろうから、拭いきれまいが、それでもいくらかはマシになるはずだ。 GM  そしてうさちゃんです。 姫巳  ・・・ GM  かえる君です。 姫巳  は? GM  くまちゃんです。     うし君です。 姫巳  ・・・ぬいぐるみ? GM  ……ぬいぐるみです。     ぬいぐるみに埋もれていました。     色とりどりの、色々な形をした、ぬいぐるみたち。     ファンシー。 姫巳  ・・・ぬめっとした感触があったんじゃないの?(困) GM  ですが     感触は――においは、     ソレですね。     目を瞑っていたら、勘違いしてしまいそうなほどに。 姫巳  「・・・ふん?香りだけか?」     今一度瞬きして、視界を安定させると、一つのぬいぐるみを手に取り     顔に寄せ・・・噛み付く。 GM  ぬめり、ぐにゅとした、感触。 姫巳  さて、匂いどおりの味が染み出てくるかい? GM  ぶちり、と千切れて綿がでてきます。 姫巳  確かに綿?腸(わた)じゃなくて? GM  綿ですね。 姫巳  「、なーんだ。」     期待はずれ、というべきだろうか?     いずれにせよ、ぬいぐるみを払いのけて体を起す。     依然として、状況が思い出せないんなら・・・ GM  衣装は、殺人のときのそれですね。 姫巳  あるいは、依然として頭に音楽が駆け巡っているのなら     「さて?とうとう僕は狂ってしまったのかしら?」自問。 GM  音が遠く消えていったところで……コンコン     と。     ノック音。 姫巳  「・・・テンションが落ちたり、羞恥心が振り戻すところを見ると、どうもそうではないようだが。」 GM  こんこん、と、再度。 姫巳  軽く、身体を押さえる。シーツを剥いで身体にかけようかとも思ったが・・・     「僕は招かれた側なんだろう。ホスト側がそう遠慮するもんじゃないよ?」」 GM  ??「おや」 姫巳  今は、ノックに答える・・・相手が入れば、また、血が熱くなる事態になる可能性もある。 GM  かちゃりとドアが開きます。     ??「おはよう、姫巳。流石に気丈だね。        音鍵遺櫃(おとかぎ いびつ)――と言うのが僕の名前さ。知っているかもしれないけれどね」     ふふっと、他人を芯から溶かすような微笑みを浮かべます。     オトカギ・イビツ――     ――なんだろう、ああ、いや……     聞き覚えは、ある。     覚えも、ある。     しかし、違和感も同時に、ある。     人に作られたのではなく、神に創られたかのような、造形美。     透けるような肌に、黒くフィットした服をお洒落に着こなし     立ち振る舞いが、いちいちに優雅で――有無を言わせない。     麗しい声が、耳元を撫でてゆく。     遺櫃「うん。 因みに服なら、いくつも用意してあるから、好きなのを選んでもらって構わないよ」 姫巳  「あの状況の僕を招くほうが、図太いといえるんじゃないかな?」     「その割、同衾するのではなく、あんな匂いの人形を一緒に寝かせてくれる当たり、紳士的なのか、」     「あるいはもう「すませて」しまった後こうした状況を整えて遊んだのか。」     知っている、筈だ。     だが、知っているこいつは、こんな人間だっただろうか。     「それとも、もっと予想外の趣向の前振りかい?」     「・・・服は、君を狙って絡み合う、その時がすぐ来るとも限らないが・・・暫く来ないなら、」     「なるほどありがたく貸してもらうかもしれないよ。」 GM  ふふっと微笑んで、白く細い指で部屋のクローゼットを示します。     遺櫃「服はそこにあるよ。ぬいぐるみは気に入って貰えたかな?。        おなかが空いているのなら、丁度良い。そろそろ晩餐が始まるからね」 姫巳  今の出で立ちは、眠る前と同じ。夜の街で血と感情に酔い狂い、獲物を誘い殺すときの、痴的な代物だ。 GM  遺櫃「先に一人、可愛らしい女の子を案内してきた所だ。彼女は着替えは良いと言っていたけれど」 姫巳  下着も履いていない、レザー風の質感にしてある薄いビニールのワンピース。     イブニングドレス風の仕立てだが、スカートは股間スレスレ、     背中は紐が覆うだけ、胸元のスリットは薄い腹にくぼむ臍まで見える。     「人形は、中々楽しませてもらったよ。中身も匂いどおりだったらもっと良かったけど・・・」     「そうしたら、興奮を抑えきることが出来なかったかもしれない。僕にとって不幸なんだか君にとって幸運なんだか。」     「晩餐会とやらがあるなら、着替えてから行くことにするけれど・・・」 GM  遺櫃「けれど?」 姫巳  「それより前に、聞きたいことが一つある。」 GM  遺櫃「何かな?」     薄く微笑む。 姫巳  「君は何故僕を招いて、僕は何故君に招かれたんだったかな?」     人形の毛に覆われた感触が残る肌を指でなぞりながら、問う。その肌に、血で濡れた感触は無いわけだが・・・ GM  遺櫃「僕が君を愛しているから僕は君を招いて、僕が君を愛しているから君は僕に招かれたんだよ、姫巳」     流暢にそう言って、一歩……歩を進めます。     遺櫃「あえて言うのなら、だけれどね」     もう一歩分、さらに近付きます。 姫巳  「前半分は認めてあげてもいいよ。」     こちらも、そのタイミングで二歩半分一気に間合いを詰める。     「僕なんかを愛してくれるとは光栄の極みだが・・・その表現方法として、」     「君が僕を愛しているから、僕が君に招かれたというなら。」     じゅるり。     「招いた以上、愛した以上、僕の性癖は知っているはずだ。それは、僕の思いを君が満たしてくれるということかい?」     心のどこかで、また獣が飢え始める。     だけれど、頭が、まだついていっていない。 GM  遺櫃「愛ね。僕の愛は相手を好きにすると言う愛なんだけれど、それを存分に君へ注ごう」 姫巳  テンポが速すぎて、踊りだせていない頭のせいで・・・まだ、表情には羞恥の色。 GM  遺櫃「それで満たされてくれれば、きっと何よりなんだろう」 姫巳  「僕を、好きにする?」頬に朱が刺す。 GM  くいっと……     腰に腕を回される。     抱き寄せられて、 姫巳  かすかに緊張し、睫が震える。 GM  あいているほうの右手で、姫巳の頬を撫でる。     扇情的に、扇情的に。     ゆるゆると。 姫巳  「・・・僕を満たす、ということは。僕の中で今もうねっている、卑しい衝動を満たすということだよ。」     「この、時折、卑しく狂おしく吹き出てしまう狂った衝動を、満たして、眠らせて、終わらせて、くれること。」     「そんなことが、出来るっていうのかい?君に?君の家に招くだけで?」 GM  遺櫃「君の望みはどうでも良い――」     数センチ先の口が言う。     吐息が、甘い吐息が、頬にかかる。     耳たぶを熱くさせる。     右手の指が、首筋――鎖骨――その下へ――まるで水滴のように     伝ってゆく―― 姫巳  「・・・どう、でも?」 GM  遺櫃「君は麗しく、美しい」 姫巳  ざわりと湿度を肌に受けながら     「・・・どう・・・かな・・・?」     疑問を繰り返す。 GM  遺櫃「君は卑しいかもしれない――しかし何よりそれゆえ、魅惑的なのさ。        言ったろう? 愛してるって」     姫巳の性感帯を――     ――しかし、するりと――     あっけなく、指は撫で、過ぎる。 姫巳  反射的に細めかけた右目。     その事実に、強く見開かれる、左目。 GM  くっと、顎の下に人差し指を添えて。     遺櫃「口付けは?」 姫巳  そのまま右目を閉じる。顔の右半分は、怯えたような受け入れの表情。     「君が僕を満たすことが出来たら、だね。」     そのまま左目が見開かれる。顔の左半分は、罠ごと足を食いちぎろうとしている獣の顔。     どくん・どくん・どくん・どくんどくんどくんどくん ―― どくん。 GM  どちらのものかわからないほど切迫していた鼓動が――     また、互い、離れ離れとなる。     遺櫃「――ふふ」 姫巳  胸を押さえかける左手。鉤爪のように指を曲げる右手。 GM  腰に回していた腕も放して。 姫巳  ダンスが終わったときのようなステップで、間合いを取る。 GM  遺櫃「何かをしていてホストが遅れてしまうのは――良くないからね」 姫巳  襲う準備のように、怯え逃れるように。     「君が僕を満たしてくれたら、口付けだ。君が僕を満たしてくれなかったら、喰らいつきだ。」     そう、言う。 GM  笑みで、答える。     姫巳の心臓が、もう一度大きく、鳴る。     遺櫃「後にしよう。――好きな服を着ると良い」 姫巳  「・・・晩餐会で会おうか。」 GM  遺櫃「そんなにフォーマルな晩餐じゃない。一番『君らしく』いられるという服で来て欲しいな」 姫巳  今度は、本当に胸を押さえる。着衣が乱れ、着衣の有様を再認識。 GM  遺櫃「夕食の場へ案内するよ。着替え終わったら、呼んでくれ」 姫巳  「・・・さて、僕らしい僕なんて、どれだろうかね。」     と、言う。     彼が居なくなったら着替えるが・・・ GM  遺櫃「君がなりたい君が、君らしい君だろう」     そう緩やかに、戸に手をかけます。     きゃちり。     どこか歪な音を立てて、戸がしまります。 姫巳  しゅる、ふぁさ。     扉が閉まると同時に、衣擦れの音。     「・・・本当に、揃っているな。」着替えとやらの前に立ち、呟く。     「・・・なりたいもの、か。分からないよ。けど・・・」     「まだ、彼は僕を満たしていない。ならば、僕を与えるのは相応しくないね。」     そう呟いて     日常の仮面に相応の衣装を手に取った。


               

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