Double Cross the Reverse...  「逆巻き琴線――喪失ひ旋律」
Middle.
   

     選択。      それを与えるだけで、      人は脆くも跪く。           GM  館の生活が始まって、3・4日ほど、過ぎた頃。     姫巳さんは音鍵避澄に誘われます。     避澄「お風呂に入りません?」 姫巳  (判定中……)→侵食率7%低下。     なんで侵食率7ばっか出るのだろう・・・     そしてまた、中々予想外な方向の誘いだな。     「・・・僕と一緒に、かい?」 GM  避澄「ええ」 姫巳  「・・・何故?」 GM  避澄「備え付けの大きなお風呂があるんです。お部屋に付いているお風呂も十分大きいと思いますけれど。        やはり大きいお風呂の方が気持ちよいでしょう? きっとそうだわ。        狭い空間に一人だと、何処となく追い詰められている気がするもの。        お人形と言うのならそれは別に構わないでしょうけれど、けれど人間は違う。        そうでしょう? だから、鏡原詩織さんも誘っておきました」 姫巳  「広さを堪能するなら、人数は少ないほうが、味わえるのではないかな?」     人を誘う、というところを少し不思議がるが GM  避澄「お話をしたいんですよ。柊君とばかりお話しているのも、こちらは楽しいけれど、あちらが困ってしまう」 姫巳  「そういうことなら。・・・僕に楽しい話し相手になれるかどうかは分からないが。」     と、頷く。 GM  避澄「畏まらなくても良いですよ。――先輩」      ――先輩。     どこかその言葉が、歪んで聞こえる。     貴方のことを呼んだ言葉。 誰かが、貴方を。     あるいは、音鍵避澄が――貴方、清智姫巳を。     よんだことば。     よどんだことば。 姫巳  「・・・名前で呼んでくれて結構だ、君こそかしこまらなくていい。」      頭痛を感じたように、軽く頭に手をやる。 GM  避澄「さ、参りましょう」 姫巳  「いこうか。」同行する。 GM  途中で、鏡原詩織も誘う。     彼女は大層狼狽した様子だったけれど…… 姫巳  「どうしたんだい?」 GM  詩織「いえ、何でもありません。ただ、驚いただけです」     ――何処となく。     避澄を……そして、姫巳も……恐れているようだ。 姫巳  「・・・」     それには、どうにも反応できないな。 GM  そして、大浴場。 GM  金色の破片が埋め込まれた、硝子のタイル。     シルバーを基調に、黄色に近いオレンジ色で作られた内装。     アクセントに散りばめられた蒼が、映えている。     詩織「凄い……」     眼鏡を外しているから、細かくは見えないであろう。     しかし、朧げに見える光景が、風呂場には、なお相応しい。 姫巳  多少、私の嗜好からすれば、派手かな、とも思うが     「綺麗だね。」     とも思うことも出来るので、言っていこう。 GM  避澄「遠慮しないで、心行くまで浸かりましょう」     服を脱いだ彼女は、無邪気です。 姫巳  「ああ。」服を脱ぐ・・・脱皮する蛇のように、静かにしなやかに。 GM  音鍵避澄――肌は白く張りがあり、美しい。     服を脱ぐと、そのプロポーションが、より強調、される…… 姫巳  戒めを解き放つこの感触は、殺しに向かうときの感触に少し似ていて、楽しくももてあます。     露になった姫巳の身体は、蛇というにはしかし、豊かだ。 GM  詩織「う……ぅぅ」     避澄「躊躇う事は無いわ。バストもヒップも気にしないで。今更だわ」     詩織「いまさら……」 姫巳  「中々、君の身体も綺麗だね、避澄君・・・?どうした?鏡原君。」 GM  詩織「……」 姫巳  と、言ってしまってから避澄の言葉の意味に気付いて苦笑。     「・・・大丈夫、鏡原君も綺麗だよ。柊君に見せてもきっと喜ばれる。」     と、柄にも無いことを言う。 GM  詩織「わ、私彼氏いますから!」 姫巳  「ほう、そうだったか。」 GM  避澄「お兄様にも愛撫でられたのでしょう? それだけの価値は少なくとも誇って問題無い。きっとそうだわ」     詩織「ぅ……」 姫巳  それはどういうこと?>お兄様にも     鏡原の恋人=お兄様、ってこと? GM  違いますよ。     避澄「気にしなくて良いわ。貞操を気にするべき館じゃない。抑圧するべき空間じゃないの。        話すと言ってもここまであたりまえのことを話すのは、少しつまらない。つまらないわ。そう私は思う。        だからさっさと入りましょう」     詩織「……」 するする、と、衣服を脱ぎ始めます。 姫巳  「・・・」視線に疑問が出ていたか、と思う。     しかし     ・・・その身を触手で貫いたら、どんな味わいがするだろう・・・     そう思い起こす殺人衝動が、ずきずきと高ぶってしまう。     だから、柄にも無いことを言ったり、考えを他に飛ばさずには居られない。 GM  奇妙な匂い。     お湯に近付いた時、一瞬――それが、香ります。 姫巳  (・・・そう思うこと自体、ここにはそぐわないのかもしれないが・・・だとしたら、ここでも僕は救われないのだな)     そう思いつつ、湯船に入る前に、身体を流し洗うが・・・ GM  体を洗うシーンは飛ばしても良いでしょう。何か話したい事ありますか? 姫巳  うむ、では、湯船に浸かって・・・     そうだな、切り出そう。 GM  どうぞ。 姫巳  「この館の暮らし・・・どう、思う?」 GM  避澄「訊いているのは私に対してですか?」 姫巳  どこか奇怪と感じる湯に、完全に身を委ねないようにしながら呟く。     「いや、二人共にだ。」     鏡原にも、避澄にも、     「どう思う?」     重ねて問う。 GM  避澄「楽しいですよ。いえ、楽と言った方がより正しいかしら。        淫靡な堕落。淫猥な凋落。怠惰を貪り、怠慢を平らげ、そんな暮らし、楽しいです」     ふふ、と、蕩けるような笑みを浮かべて、言います。     避澄「どろどろに崩れていくような、とろとろに溶かされていくような、        足元から不均一に不定形へ成り下がる気分。人はそう言うものに抗えない。きっとそうだわ。        抗えないけれど、あがく。それが人。そのギリギリのライン上に、この館は存在している」 姫巳  「蕩ける、か・・・」湯の中、自分の身体の肌をふと指でなぞる。 GM  ぱしゃ、と、湯を鳴らす。     詩織「……私は」 姫巳  他者と分かりあいたすぎて、殺してしまう。あの瞬間の悦楽と衝動は、思えば、蕩けて混合したい欲望か? GM  こくり、と、軽く生唾を飲んでから。 姫巳  「・・・」詩織に視線を向ける。 GM  詩織「悪くないと――思います」     そう、言う。     強いて。 GM  詩織「貴重な体験ですよね、こう言うの……。あまり、ないですし。館の人も……個性的……」     個性的? あれが! あれが個性的! そんなものか。 GM  詩織「個性的、だし。 遺櫃さんも、綺麗だし……館も、綺麗……だし」     一言一言。     一言一言、嘘を吐いている。     嘘を吐かずに――居られない。 GM  詩織「悪くないと、思います」     否定を避けて、否定から逃げて、肯定で何とか自分を保て。     受け入れろ。 GM  避澄「悪くない。そう言って頂けて、嬉しいわ。お兄様も喜んで下さるでしょう」 姫巳  「・・・そう、か。」それが全部分かってしまうので・・・だから逆に何も出来ない。 GM  知ってか知らずか、避澄は笑う。 姫巳  どう触っても、僕では壊してしまう。     第一・・・・この壊れかけた心は、「赤口」には、獲物として欲望をそそりすぎる。     食べてしまいたくなる。 GM  避澄「先輩――清智姫巳……さん? は、如何なのですか?」     逆に、問う。 姫巳  「はぁっ・・・」その思いを吐息でごまかして     「・・・僕?僕、・・・僕、か。」     当然帰ってくるだろう答えに不意を打たれる。     「僕は・・・」 姫巳  「むずかしいね」 GM  詩織「難しい……?」     避澄「質問しておきながら、それは無いでしょう」     と、少女のように少女らしく、失笑をする。     避澄「いえ、自分では判じかねるから、訊いたのですか」 姫巳  「いや、難しい、というのはそういうことじゃない。答えるのが難しいんじゃなくて。」 GM  詩織「えっと……?」 姫巳  「この館には「難しい」という感想を抱いた、ってことなんだ。」     「僕にとっては、中々貴重な実験だったが・・・僕は中々、僕から自由になれないらしい。」 GM  詩織「館が、難しい……」     吟味するようにその言葉を繰り返す、鏡原詩織。     避澄「抽象的ですね。具体的には言いづらい理由があるんでしょうか。きっとそうだわ。        だとしたら、深くは訊きませんけれど」 姫巳  「相克する己からの開放は、この館でも難しかった。むしろ、強まったかもしれないね。」     「ああ・・・抽象的で、御免。」 GM  ――つん。 と。     いっそう、香る。 姫巳  「つまるところ、自由すぎて逆に考えてしまうので悩ましい、ということさ。」     と、詩織と避澄に答えておく。 GM  詩織「……」 少し、匂いにか――あるいは、その返答にか、顔をしかめます。 姫巳  殺人衝動とそれへの嫌悪という、二面揃って自分でありそれはどうしても外せない。 GM  避澄「本当の自分って、存在すると思いますか?」     誰に問うとでもなく。 姫巳  「幻想だと言う人も居るさ。あるという人も居る。ただ、それは認識の問題だ。」     「あると思う人間にはあって、無いと思う人間には無いんだろうと・・・これも、僕が思っているだけだけどね。」 GM  避澄「虚構――真実。外側――内側。建前――本性。        認識、認識。在ると思う人間には在って、無いと思う人間には無い――概念論。精神論。        あるいは、良くある個々人の中の世界――ですね」     歌うように。     避澄「けれども私は試しにこれを否定してみるわ」     詩織「試しに、否定」 姫巳  無言で頷く。 GM  避澄「試しに否定。そう――。本性などというものは、感情などと言うものは、無い。        存在しない。きっとそうだわ」     きっとそうだわ。     避澄「しかししかし、普段抑圧しているものは確かに存在する。        これは本性とは違うのか? 感情とは違うのか。そうよ、違う。        それは人の、感覚――認識――外界。皮膚に最も近い部分であるだけ、内側に在るものじゃない」     歌うように、歌うように。     避澄「あるいはそれは動物に近い部分だわ。本能が本当だなんておかしい話よ。        人と動物を隔てるのが理性だもの、何故に、理性を捨てた部分を本性と言えるのかしら?        だから、そう。理性まで――抑圧まで――建前まで――含めたものが本性。人間たる存在なのよ。        キャラ付けってそう言う事よ。        切り離した時点で、それは動物について論じているのであり――人間について論じるのではなくなるわ」 姫巳  「・・・」それはどこか今時分が抱く結論と近いが、己の衝動を、軽々に扱われているような、貶められているような GM  詩織「……」 姫巳  ・・・内心で衝動を愛している、というわけでもないが・・・どこか複雑な思いで聴く。 GM  避澄「――と言う結論に、試しにつながるわ。どう思うかしら?」     詩織「……極論、過ぎはしないでしょうか」     ちゃぷ、と波が立ち……     さらに、香り立つ……。     詩織「それなら……苦しみつづけるのが人間と言うことに、なってしまう。気がします」 姫巳  「・・・人間存在を、腑分けすれば、そんな結論になるかもしれないけれど・・・」     「一度腑分けして殺したものをつなぎなおしても再生はしない、人間にはならない」     「何となくそう感じた。僕の考えは、最初に言ったとおりだが・・・・」     ああ、詩織の言葉に共感しつつも、     中々、避澄も言う・・・嫌いたくなるほどには、私に近い。     苦しみ続ける存在・・・という、詩織による避澄論の評価は、なるほど私の今の悩みだ。     「・・・鏡原の違和感は、分かる気がする。」     ・・・とだけ、言うに留めておこう。 GM  詩織「……違和感」 姫巳  「どうも、いけないな。湯にあたったのか、考えが纏まらない。」     と、苦笑しておこう。     …… GM  詩織「違和感……湯、あの。音鍵さん」     避澄「何かしら?」     詩織「この、にお……香り、なんですか?」     そう言った瞬間から――     より、自覚する。 GM  避澄「ああ、これ」     避澄が指を振る。 ちっち、と。     魔法のように、湯気が散る。     姫巳は――既に、何処と無く。感じては、いた。     気付いていた。 GM  避澄「人の」      赤い。     避澄「血ね。血液」      赤く ―― 生臭い。     ざばっ  っ  …… ……  ! GM  詩織「!? ぅ! お、ぅぇ……」     立ち上がり、口元を抑え、近付いて来た異臭に     また咽る。 姫巳  「・・・悪い冗談だ。堪能できない子もいるんだよ、こういうのは。」     ざば 姫巳  鏡原を支えて、湯から出よう。        ざばっ …… 姫巳  「僕もすっかり湯当たりしてしまった・・・上がらせてもらう。」     しかし、肩越し振り返る、僕の顔は     ああ、きっと僕は、この趣向を存外好んで笑っているんだろうね・・・支えている相手には見せないようにしながらも。 GM  避澄「どうぞ。けれど清智姫巳さん、貴方はお気づきだと思いますけれど」     くす、と。        本物じゃぁ ―― ないわ。


               

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