Double Cross the Reverse...  「逆巻き琴線――喪失ひ旋律」
Middle.
   

     仕方なかったじゃない、忘れていたんだもの。      朝靄よりも希薄な価値しかない、そっちがいけないわ。         GM  遊噛「実際、滑稽なお話よねー」     音鍵遊噛は、脈絡も無く貴方に会いに来て、脈絡も無くそう言う。     末っ子。     あるいは、我侭。     そして、瑕耽にとって、最も忌々しく――最も厄介な対象。     ……手強い。     遊噛「貴方のご主人様――遺櫃のお兄ちゃんは、何がしたいんだかわからないわよね」     ころころと、笑う――     発狂するほどに美しく。     内に、どうしようもない皮肉を孕んだ笑みを、浮かべるのです。     遊噛「ね。瑕耽ちゃん」 瑕耽  (判定中……)→侵食率6%低下。     「そこに理解はいらない、と。私は思います」     「理解とは自己満足です。そして自己満足を求めるのは愚かだと言いましょう」     相手を見つめることもせず 虚空を見つめ言葉を放つ GM  遊噛「どうして? 自己満足を求めちゃいけないんだ。        自己満足自己満足。それってさぁ、でも生きる理由じゃないの? 大概において。        あそっか。貴方生きてないもんね。        お人形だもんね。        生きてちゃいけないよね」     そう言って、また、ころころと笑う。     遊噛「生きてないんだもの、生きてるご主人様と対等になれるわけないの。        等しくなれないってこと、それ以下ってこと、つまり、一番にはどうしたってなれないってこと」 瑕耽  「………」     言葉が私をえぐります     聞き流すこともかなわず毒のように耳に滑り込むのは自分でもそう思っているからですか?     私は生きてはいません     まるで 本当に死んでいるような     そんな お人形だからでしょうか     五月蠅いです     煩いです GM  遊噛「……」     じっくりと、そんな様子を見て楽しむように――噛み締めるように。     押し黙って、から。     遊噛「事実――」     と、続けます。     遊噛「あの人たちがこの館に来てから、ご主人様は、貴方に対して疎遠になったわ」     それが楽しくて仕方ないように。     遊噛「気にかけてもらえる機会が、随分減っちゃったよねー。        具体的に例をあげて言うのなら、特にあの女の子――姫巳ちゃんだっけ。        ご主人様、ご主人様、たぁいせつなご主人様は、瑕耽ちゃんじゃなくて姫巳ちゃんを――」 GM  遊噛「 アイシテル 」     愛してる。     愛している。 GM  遊噛「ん、だって、言ってたの」 瑕耽  「―――」 GM  遊噛「――」 瑕耽  虚空を見つめていた視線は遊噛を見据え     「そうですか」     丹念に 精巧に     不自然なまでに創りこまれた瞳     蠢く硝子の瞳に方向性が与えられて     「アナタが何を思ってそれを私に伝えたかは知りませんし。知りたくもありません。嘘かもしれません」 GM  こつ。     と、足音が聞こえました。     遊噛「――と。お兄様が来たみたい」     そう言って     かちゃり、扉が開けられると同時に、遺櫃の脇をすり抜けていく――遊噛。     遺櫃「やあ、瑕耽。パーティを開くから、おいで」 瑕耽  「はい、御主人様」 GM  さらりとした瑕耽の髪を軽く撫で、遺櫃が抱き上げてくれます。 瑕耽  「ん」     心が愉悦で満ちます     洗い流してください     洗い流してください、御主人様     毒を 毒を この身に沁み込んだ毒を洗い流してください GM  何も言わず、抱き締めてくれます。     何も言わず。     ――そして、何も言わない。 瑕耽  嗚呼     これも 自己満足なのでしょうか     私の言葉すら私を穿ちます     心の関節が悲鳴をあげます     ぎしぎしと ぎしぎしと GM  やがて……会場となる広い部屋へ、着きます。     お二方も、登場どうぞ。 姫巳  (判定中……)→侵食率7%低下。     うぐっ、また高め(汗)  柊  (判定中……)→侵食率7%低下。     あ、一緒だ。 姫巳  会場の広間はどんな様子でどんな間取りで誰が何人ほど? GM  この館の人間は全員居ますね。     13人。     と、もう一人、詩織さんですか。     14人。     その全員が自由に動き回っても、狭さをほとんど感じない広さ。     高い天井に、オレンジ色の空が描かれ、奇妙に絢爛なシャンデリアが光を放ってます。 姫巳  この館の人間、といっても、主人一家以外はあのメイドと執事か・・・ GM  大きな扉が4つ。舞台が一つ。床は赤と黒で磨かれたタイル。 姫巳  お客さん除いてだけど。 GM  執事の根津、および、7人のメイド、否螺・賂梨・葉等・似慣・穂波・経花・隣祖は、壁際に立ってます。     端の方に丸いテーブルがいくつか置かれ、その上に軽食と飲み物が。     椅子も用意されてます。 姫巳  ふむ。 GM  柊君は避澄に、姫巳さんは隣祖に、そして詩織さんは否螺に、部屋に居る所を呼ばれました。  柊  「・・・」無言で、立って文庫本を読む。 GM  衣装は館で用意されてます。     詩織「…………、……」     おずおず、おどおどと、びくびくと、しています。 姫巳  「・・・踊り相手(パートナー)の少ない舞踏会だこと。」     と、こんなところで本を読んでいる柊を見て嘆息しつつも優雅に歩いています。 GM  銀色と淡いオレンジに彩られたドレスを着込んでいる、鏡原詩織です。     そこへ、遺櫃と瑕耽が入ってきました。 姫巳  ちなみに、選んだ服は白いドレスだけど、偉く古風な・・・布地が厚めで、胸元から首元にまできちんと布があるドレスです。     白地に銀糸で、目立たない縫い取り。 GM  瑕耽を椅子に座らせて、 姫巳  「・・・」案じるように怯える詩織を見るが。 GM  黒い燕尾を着込んだ遺櫃が、舞台の上に立ちます。     優雅に、礼をする。     その所作だけで、数多の女性――男性すらも、心奪われ時を忘れるだろう。 姫巳  「・・・お招き預かり、どうも。」やってきたのであれば、彼に典雅な礼を。     スカートの裾を持ち上げる、あの所作だ。 GM  遺櫃「今宵はよく集まってくれたね」     そう、切り出す。     遺櫃「理由は無い。理屈も無い。けれど、たまにはこう言うイベントも良いだろうと思ったのさ」     くすくすと、微笑んで。     遺櫃「勿論食事は好きなようにしたまえ。踊ってもいい。喜んで僕と――」     ちらりと避澄を見やる。     受けて――、避澄が礼をする。     遺櫃「僕の妹、避澄がお相手しよう。        では、夜を始めよう」     そう言って、礼をする。     根津が動き……曲が流れ始めます。 GM  避澄「――ねぇ!」 GM  と、早速柊君へ声をかける避澄。     その声に、後ろの方で……詩織がびくりとしたようです。     流れる曲は、どこかしら音がかけているようで、気持ちが悪い。     しかし、綺麗ではないと言い切れない。     呑まれそうな――曲です。  柊  「あ、なんです?」本からは目を離さず、答える GM  赤に――肌色を合わせた、ドレス。     避澄「何が踊れるかしら? ワルツ? タンゴ? 柊君の事だから、ダンスは苦手かしら。        きっとそうだわ。でも心配しないで、私が教えてあげるから。それとも踊りたくないかしら?        駄目よ、流石にそこは許容しづらいわ。踊るべきよ。だって曲がかかっているんですもの。        ダンスパーティよ、言わば。ダンスパーティで踊らなかったら、ただのパーティよ。        それでは辞書に載せられないわ。恥をかくだけよ。        けれど仕方が無いわね。どうしても踊りたくないと言うのなら、私はそれを認める。        それが私の愛だから。それでも、一応誘っておくのが礼儀だし、私は柊君と踊りたい。        舞踏したいのよ。だから言うわ。        ねぇ、一緒に踊りましょう? 私のリードをして下さらない?」     際どい露出。誘うような妖艶。  柊  「リードを頼まれてもまず踊り方を知らないんですけどね・・・」ため息をつき、文庫本をポケットにしまう。 GM  避澄「構わないわ。本当のことを言えば私、柊君に触れていられるだけで幸せだもの。        幸せと言うほど滑稽な言葉も無いけれど」     そう微笑んで、柊君の手を掴みます。     ――と、気付いたように。     避澄「鏡原詩織さん?」     詩織「……はい」     おど、と、応えます。     避澄「料理を食べて居ると良いわ。飲み物も好きなように飲むといいわよ。お酒も在るわ。        法律なんてこの館では毛ほどの意味も持たないわ。いいえ、毛頭意味を持たないのよ。とても微小な問題だわ。        美味しいわよ。人間、十を超えたらお酒の味を知っておくのが使命だと思うわ。至上命令よ。きっとそうだわ。        けれど個々人の意見も私は尊重する。飲みたくないのなら飲まなくても良いわ。        けれど貴方は飲んでおいた方が良いとも思う。素面のままだと、踊れそうに無いもの」     詩織「……」     こくり、と、頷きます。     さて、手を取られて、ダンスを始める柊君です。     姫巳さんに目線を移しますけれど、よろしいですか? 姫巳  「・・・飢えて渇いているよりは有意義だろう・・・食欲次第だが。だが、ダンスパーティなんだ・・・ダンスは順番にな。」     と、詩織の背後から言っておこう・・・ GM  詩織「……清智さん……」     と。     ぬっと顔を出す、葉等。     詩織「ひ」     葉等「……」 GM  その様子に、顎をスッパリ切り取られたメイド、葉等は首を傾げます。     グロテスクな肉の顔面が、覗く。 姫巳  「鏡原君・・・」 GM  空気の通る器官、閉じられた血管が見え。     その後、ふいと背を向け、行ってしまいます。 姫巳  では、そこから視線をそらすように、手をとってつっと誘導する。 GM  詩織「何、な、なんです?」       ♪、 ♪♪、 …… ♪  ♪  GM  葉等は、似慣と踊ってます。     他のメイド達も数人。 姫巳  「いや、君に名を呼ばれたのでね。・・・踊ろうか?」     話があるなら、踊りつつ聞こう・・・という感じで。 GM  詩織「え、いえ。……はい」     青ざめた顔で、頷きます。 姫巳  「・・・舞踊は精神に良い。動いていれば、周囲を目に止める暇も無い。」     そう言って、踊りをリードします。怖いものが目に入らないように、自分の立ち居地を計算して。     詩織の目に入らないように、ね。 GM  詩織「……」     始終、俯きがちでは在ります。     曲がかけてゆく……。     遺櫃「ふふ……踊るかい、瑕耽? 僕の可愛いお人形」     と、瑕耽に声をかけます。 瑕耽  「ええ、御主人様」     手を差し出し GM  遺櫃「ステップは合わせづらいけれどね」     そう言って微笑み、手を取る。       ♪       ♪    ♪       ♪    ♪    ♪ 姫巳  (全く・・・僕という人間は)     詩織を気遣うのと柊を気にするのに意識がばらけかけている己を自己嫌悪。 GM  足が交差し、思いが交差し、視線が交差し、楽曲と交差してゆく。     奇異を駆け上っていく高揚感。     階段を踏み外していくような堕落感。     光がちらちらと瞬き、時間が過ぎてゆく……      …………     相手を変え。     曲が変わり。     食べ、飲み、そして。               狂う。 姫巳  (ああ、本当に。なんとも卑しく、浅ましい・・・)     思いつつも、ダンスをこなし。 GM  言葉が、宙を舞う。     遺櫃「例えば僕らは愉悦を貪りあった。しかしその行為にどれだけの意味があっただろう?」     避澄「お兄様、意味なんか考えるだけ無駄です。楽しかったのならそれで良いでしょう?」     遺櫃「しかし、楽しいだけで存在していないのが人間だよ」     避澄「それはそう。けれど大きな生存理由の一つだわ、楽しいって事は。どう思う?」 姫巳  「大丈夫かい?」     と、そんな会話の合間に詩織に声を掛けて GM  詩織「……気持ちが、悪い……」     胸を抑えて、言います。 姫巳  「・・・酔ったのか、この空気に・・・」     と、いいますけど・・・どうしたらいいか、困ってしまう。  柊  「・・・『異常』に耐えきれなくなったなら、『夢』と考えてしまえば楽ですよ。」     「・・・少なくともこの館は、『現実』と見るにはおかしすぎる。」     と、ダンスの合間に柊単体で通りがかる GM  詩織「夢……?」     腰掛けて、呟きますが。     詩織「夢……それは、無責任よ。神無月君」     無責任、無責任…… と、呟きます。 GM  つっと、避澄が近くに腰掛けて、優雅にシャンパンを口につけます。     避澄「感覚に無責任よね。確かにそうだわ」 姫巳  「夢・・・」何か、戸惑うように呟いて GM  詩織「夢で言い訳が出来るなら、とっくにそうしてるわ」  柊  「・・・耐えきれないことがあったとき、『夢』に逃げる選択肢を選ぶのが一番心に楽だと思うんですけどね・・・」     『居眠り柊』では無くまじめな顔で、どこか遠くを見ながら呟く。 GM  詩織「違うわ、逃避、それはただの逃避……気持ち悪い」  柊  「『夢』に逃げられないなら、向き合って戦うしか無い。もし、ソレが苦しいなら・・・できる限り手伝いますよ。」 姫巳  「・・・」柊と詩織のやり取りを、どこかはらはらしながら見守っているが GM  遺櫃「現実逃避。ふふ、良くある防衛術だね。あるいは自閉症かな? 病的疾患に大概は分類される」     避澄「しかしそれがいけないことなのかしら? 逃げるのは悪いこと?        生き抜くためには必要な選択肢よね。当然の摂理として自然界に存在しているわ」     詩織「向き合って……戦う? たたかう。 気持ち悪い……」     遺櫃「そう。立ち向かうためには然るべき力が必要になる。それが無い場合は、逃げるしかないだろうね」     避澄「戦う場合と逃げる場合、どちらが多いかと言えば、それは逃げるが勝ちと言うわ。        ただし、人にはプライドと言うものがあるのよね」 GM  言葉が、渦巻く。     詩織「…………」     遠いはずの言葉が、耳元で聞こえる。     おかしいわ、おかしいわ。おかしい……     夢だと考えてしまえば、楽? 堕落……? 落ちろと、神無月君は、私に言ったの?  柊  「・・・戦いたくても力が無いのなら、力を補うための剣になるさ。」     酔った? 空気に酔った? 空気……空気が悪いから気持ちが悪いの?  柊  「逃げる道を拒むのなら、戦う道を手助けしよう。」     剣……? 殺すための武器よね、それ……     殺す……殺人……殺さないと……プライド……? 私と言うものは……プライド……矜持…… ちっぽけな……?  柊  「・・・護る道を行って失敗した身には、その2択しか言えないけど・・・」 GM  詩織「……神無月君、何を、言ってるの?」     くっと、手元の飲み物を呷って。     詩織は呟く。  柊  「・・・まぁ、去年色々あってな。」     遠い目をする、『居眠り柊』では無い顔の柊。 GM  詩織「わからないわ。戻って……、君、全然普通のことを言ってない……」  柊  「・・・」その言葉に対して、何やら思案する。     「・・・『普通』の道は、去年踏み外したんでね。」寂しげに呟く GM  避澄「普通ですって、お兄様」     遺櫃「普通と言う言葉を、まさかこの館で聞くだなんて、貴重だね。なぁ、瑕耽」     瑕耽、と、声がかけられます。 瑕耽  「ええ、其の通りですね。御主人様」     「ここにいるもの総ては何かが欠けています」 GM  瑕。     欠けている。     詩織「欠けている……踏み外した……」     目が、見開かれる。     瑕耽の、複雑な瞳に魅入る。 瑕耽  「それともアナタは何も欠けていないのですか?それでは何故ここにいるのですか?」       ♪  ♪♪♪  音程が――ずれる。 GM  詩織「わ、私は……」 瑕耽  「アナタの隣にいるお二人も欠けていないとでも、思っているのですか?」 GM  詩織「神無月君は、清智さんは……」       おかしいわ。     詩織「ふ、つうよ」         ――  オカシイワ。     詩織「ただ しい わ」 瑕耽  「欠けているということが、自分であるということです」  柊  「・・・」鏡原の言葉に、答えは返せない。 瑕耽  「それは、私に血と肉が欠けているかのように」     「それでは。普通と。欠けていないというアナタは」     人形が喋っている目の前で人形が私に問いか     けている人形の瞳が硝子の瞳が私を映してい     る私は普通のはず私は正しいはずけれどああ 瑕耽  「――一体なんなのですか?」 GM  嗚呼――     なんて     なんて美しいお人形だろう。     音鍵――遺櫃は美しい。     音鍵――避澄は美しい。     圧倒的な劣等感が刺激される。     些細な容姿への自信が揺らぐ。     本への執着が破壊されてしまう。     それどころではなく。     目の前の人形が、美しい。         私は、欠けている? GM  詩織「あは あははははははは、う、み、みにくい……」 姫巳  「・・・瑕耽の言葉と・・・詩織の言葉は、柊の言葉も、矛盾しない。」     搾り出すようにいう。     「普通であることと、欠けていることは矛盾しない」  柊  「・・・鏡原は鏡原だ。『壊れた世界』と無縁の普通の学生だ。」 GM  何かにしがみ付いている私が、とても、とても        ミニクイ         キモチワルイ。 姫巳  自分には当てはめて信じていないことだが。彼女にはそれを信じて欲しいとかすかに願う。 GM  詩織「か、神無月君、」     縋るように、うなだれる。 姫巳  すがろうとする詩織を守る。その間の邪魔をさせないように身体を動かす。     「・・・君の美しさは罪だな。」と、瑕耽にかすかに苦笑。 GM  きしゃ、かちゃり。     クロスを引っ張り、食器が音を立てて。  柊  「・・・なんだ?」 GM  詩織「神無月、柊君は、平気なの?」     あは、あ、 と――笑う。  柊  「・・・平気だからこそ、願うのさ。」 GM  詩織「あは……」  柊  「・・・鏡原までこの『狂気』に墜ちないでくれ。」 GM  詩織「あはぁ、楽しいわ……」     頬が上気している。     曲調が、転落してゆく。 GM  詩織「ひいらぎ、柊くぅん。楽しいわよぉ。 とぉってもぉ……」       駄目だ。         ワタシハココニイテハ       私はここに居たら壊れる。 GM  フォークを、握り。      きしり。 GM  遺櫃は気付いていない。     避澄は気付いていない。     瑕耽は気付いても止めない。     姫巳は、柊は?  柊  ・・・柊が、止めよう。 GM  振るう――!           ざ く。  柊  己の右腕、異常である証の『砲』を仕込んだ腕で受け止めて。       きぃん…… GM  しかし、それは刺さらず、宙へ舞う。      ぃん ぃん ぃん …… GM  音が撓み。     詩織「あ」  柊  「・・・願いは、届かなかったらしい。」     そう、ぽつりと呟く GM  詩織「ああ、あはは、あはははははははははははははははは!! あ」     現象に笑い。     感触に惑い。     自覚に狂う。 GM  詩織「ああああああああああああああああ!!!」     とん、と、押しのけて、      欠け        駆け     扉から出て行く。      ―― ばたん。 姫巳  「柊っ・・・鏡原君・・・」 GM  遺櫃「……どうやら」     くす、とその状況に微笑んで。     遺櫃「今夜はこれでお開きみたいだね。各自解散してくれ」     何事も無かったように、手を叩く。 姫巳  「・・・そのようだ。」呻くように呟いた後、無表情で、同意。     そして、ふと思う。     「・・・柊君。」問う。     「君は、昔・・・似たようなことを言わなかったか?」  柊  「・・・え?」 姫巳  「・・・何処かで。いつか昔に。」  柊  「・・・だいぶ昔、ひめちゃんって子に言った記憶はありますけど・・・」 姫巳  「・・・」少し、大きく目を見開いて、深呼吸する。     「・・・だったら、傷つくことは無いよ。」     「君は昔・・・同じ言葉で誰かを救ったんだ。」     ・・・だから、今救えなかったからって、傷つくことはない。 姫巳  (・・・夢、か)     思い出して、思う。  柊  「・・・え?」 姫巳  (私の夢は・・・ここで覚めるのか)     と。何かが終わるような予感と共に。     かつ。 GM  避澄「記憶と言うものは認識と同じ位にあいまいなものだわ。        部屋へ帰りましょう、柊君」     すっと、割って入るように、そう言います。     避澄「清智さんも、お部屋へ戻るのをお薦めするわ。なんならメイドに案内させましょう」 姫巳  「・・・いや、結構。」  柊  「・・・部屋、か・・・」 GM  避澄「……」 目を     少し、細めて。     避澄「了解しました」  柊  ふと、足もとのフォークを拾う。 GM  と、笑う。 笑う? 避澄。  柊  鏡原が使い、自らの右腕が弾いたフォーク。 姫巳  それを見て、踵を返す。  柊  ソレを拾ってポケットにしまい、部屋へと帰っていく。 姫巳  踵を返して、部屋を去るとき。     遺櫃と瑕耽に、姫巳は視線を走らせている。     問うように嘆くように、許すように恨むように、複雑な視線を。       GM  遺櫃「どうだった? 瑕耽」     最後に、人が居なくなった中で、遺櫃は問う。     自問するように。     遺櫃「姫巳は良いなぁ。本当に、良い。あれだけ奇妙なジレンマは、そう無いよ        理性が擦り切れるのを見ているみたいだ。美しいね。彼女、自己投影をしていたみたいだよ?」     くす――と、吐息を漏らす。     遺櫃「ある種、傲慢な押し付けだね。        神無月柊君の事もそうだ――直感と直観は絶望的に違い、記憶となればさらに大きな違いがあるのに――        ありし日の思い出を重ねずには、居られない」 瑕耽  「無理にフリをする必要などないと、私は思いますが。これは私がこの館の中にしかいないからでしょうか?」     遺櫃「フリをしないと――自分と言うものを振舞わないと、存在出来ない人間と言うのはまま居るものさ。        そのままでは許容できないほど醜いのを知っているから、だね。どこかで騙し騙し生きている。        だからそこに――『歪』が生じる」 瑕耽  「それが、美しいのですか?」 GM  歪が生じることが、生きているということ。     遺櫃「美しいよ。何故ならそれは限りなく人工だから――人形である君のように美しい」 瑕耽  声にびくりと身体が固まる GM  遺櫃「全然自然じゃない。全くもって天然じゃない。人工物――汚物――廃棄物。        だから僕は彼女を愛すのさ。彼女が押し付けるように奪うように愛すように、僕も、そう、愛す」     くす、くすす、と、笑って。 瑕耽 GM  遺櫃「じゃあ、部屋へ戻ろうか」 瑕耽  ああ 瑕耽  「…ええ」 瑕耽  私は     私はそんなあの女を醜いと     醜いと、思ったのです     ああ、けれどそれは     私が 私が醜いと     そういうことなのですか 御主人様     私は 私は     私は――? GM  遺櫃「君は美しいよ、瑕耽」     遊噛「貴方は醜いのよ、瑕耽」     姿がぶれた 気がした。       しかし、それ以上踏み込む事無く、この夜が終った。


               

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