Double Cross the Reverse...  「逆巻き琴線――喪失ひ旋律」
Middle.
   

     夢を追いつづけるのが      カッコいいって。      布団に縋りつくガキと      変わらないのに。           GM  今朝の朝食に、鏡原は顔を出さなかった。     ――それも、そうだろう。     そう考えながら、君は図書室の中に居ました。     鏡原詩織と、神無月柊にとって、憩いの場のはずであった、本の領域に。  柊  (判定中……)→侵食率10%低下。     「・・・」何も言わず、ただ本を見つめる。     手に取って読むこともせず。     取だそうと指を伸ばす事もせず。     ただ、本棚に仕舞われた本を見つめる。 GM  ずらり     と、途方も無い量の本。     ずず、ずらり、と――     神経質に並べられています。     隙間無く。  柊  「・・・無い、か。」ぼそっと、呟く。     柊が探すのは、1冊の本     鏡原が「一度読んでみたい」と憧れ続けていた本     ソレを、ぼんやりと探しながら GM  とんっ。     と、背中を叩かれます。  柊  「・・・?」振り向く GM  避澄です。     ちょっと驚いたのか、お腹の中がごろごろとします。     ――今朝の朝食――サンドイッチは、少し、奇妙な味がした――そんな事を、思い出します。  柊  「・・・何か、用ですか?」 GM  目の前の避澄は、朝は卵しか食べてませんでしたが。     避澄「敬語丁寧語なんてよそよそしいわ。治らない? 私は出来るのなら柊君には、気がね無く話し掛けて欲しいわ」     くすくすと笑って。     避澄「どう? 広い図書室よね。むしろ図書館と呼ぶべきよ。両者の違いは何かしら?        建物がそれようとして建てられていたら、図書館?        だとしたら、図書館と呼ぶのには流石に間違いかしら。曖昧だわ。私は曖昧と言う言葉が嫌いでもないけれど」     椅子を――綺麗な刺繍のなされた椅子を、かりかりっと引いて、     優雅に、しかし豪快に、とすんと座ります。     スカートの裾がはためく……。  柊  「・・・ソレが、『建物の一部』として作られたなら図書室、『単体の建物』として作られたなら図書館。」     「そんな違いかと思うんですけどね。」本棚を見ながら GM  避澄「どちらにしても、ここに在る本の量は変わらないわ。一生かけても読めないほどの量よ。        ここに在る全ての本を、縦に積み重ねたら、どれだけの高さになることでしょう? 月に届いちゃうかしら」  柊  「けれど、多くても『読もうと思える』本は一生をかけなくても読み切れる量ですけどね。」苦笑しながら、隣の棚へ GM  避澄「成る程ね。読みたいほんとはそれは区別するわけよね。面白いわ」     机に肘をついて――それが異様に様になる――柊を、目で追ってます。     避澄「……」  柊  「・・・ココの本は、確かに量が有るけど・・・」     「惹き付けられるような、魅せられる様な・・・そんな魅力のある本はそんなに無いですし。」     ため息を一つ、隣の棚へ。 GM  避澄「そうなの? なら燃やしてしまおうかしら。きっと綺麗よ。        人類の紡いできた、人類の綴ってきた、知識の蓄積を、無残にも無粋にも無遠慮に燃やしてしまう。        その炎はきっと、蹂躙の香りがする。きっとそうだわ。        きっと綺麗よ。けれど心はくすむかもしれないわね、そう、煤とかで」     事も無げに、そんな冗談を口にします。  柊  「・・・ソレだったら、俺の心はくすみ切ってますよ。なんせ、扱う道具は手榴弾。煤の量も洒落にならない。」     と、冗談で切り返す。     けれど、視線は本棚から離れない。     まるで、何かを探し求めているかのように。 GM  避澄「そう。けれど煤に汚れた男の人は、嫌いじゃないわ」     ――、 …………。     彼女が口を閉じると、まるで静かな……     何処からとも無く、あのオルゴールの音が、また聞こえてきそうなほど静かな、空間です。     避澄「……ねぇ」  柊  「なんです?」 GM  避澄「何で私に横暴な口を聞くことすらしないで、健気に本棚を眺めているの?        何か探しているのかしら? きっとそうだわ。何を探しているの? 当ててみましょうか」  柊  「当てて見てくださいな。」 GM  避澄「えっとぉ、まず本よね。本に違いないわ。何かしらの本よ。        だって図書館で、本棚を見つめているもの。それだけは確かだわ」     指を額に当てて、考えるように。     避澄「次に、ここに置いて無さそうな本よね。置いてそうな本なら置いてあるから、既に見つけているはずだわ。        それから……、柊君が『読もうと思える』本じゃないかしら。        さっきそんな話をしていたわ――伏線よ! 伏線だわ。探偵小説とかで話に出てくる、伏線だったのよ。あの発言は」  柊  「・・・残念、外れです。」 GM  避澄「ふぅむ……。中々難解な謎ですなぁ。犯人は悪魔のような天才ですよ、こいつぁ」     と、何処かしらの探偵を真似るようにそう言って。  柊  「題名は、『ある旅人の日記帳』。鏡原が一度読んでみたいとか言ってた本ですよ。」 GM  避澄「鏡原、さん……?」     首を傾げてから、とん、と指先で机を叩いて。     避澄「ああ、あの眼鏡の方ね。眼鏡っ子よね?        それでいて三つ編みっ子よ。いわゆる委員長っ子よね」  柊  「あえて言うならそうでしょうね。」 GM  避澄「その鏡原さん。鏡原さんも、本がお好きだったのね」     と、意外そうに言います。  柊  「図書委員で、よく図書室に入った新刊を訊いてましたよ。」苦笑する GM  避澄「けれどこの図書室には近寄らなかった」     断言するように。  柊  「・・・ホント、何故だったんでしょうね。」本棚の裏に回りながら GM  避澄「怯えていたものね。震えていたわ。恐怖していたわよ。最初のころはね。        だから図書室へ行くなんて余裕も発想も無かった。        無理も無いわ。私だって図書室は怖いもの。理由は違うけれど」     軽く方を抱くようにしてから。     避澄「それに最近は、壊れてきちゃってたから。きっと怖さのあまり気が触れちゃったのよ。可哀想に。        心底同情するわ。理解は出来ないけれど、同情するわ。残念、可愛い子だったのに、可哀想」      ――あはぁ、柊くぅん。楽しいわよぉ、楽しいわぁ、とぉってもぉ、楽しいのぉ……――  柊  「・・・良い相方だったんですけどねぇ・・・」本棚を見上げながら GM  避澄「けれど、もうこれ以上可哀想がることも、ましてや悲しむことも無いわね」     ふふ―― と、窓の外を見上げるように……     避澄「 だって、この館にはもう、居ないもの 」  柊  「・・・じゃあ、『何処に』行きましたか?」呟くように、問いかける GM  避澄「知らないわ。行く末は知るところじゃない」        柊君は、この館――」 ふっと。     ふと、それを思いついたみたいに。     なんでもない、突沸的なアイデアと言うように。     避澄「この館――嫌、かしら?」  柊  「・・・ええ。」     「・・・出て見たいものですね。」 GM  避澄「……」     かたっと、立ち上がります。     つつつっと近寄ってきて……     人としての警戒距離もあっけなく超えて……     するりと左腕を柊君の首元に回して、右手の指で、柊君の頬を撫でます。     避澄「出る方法なら、あるけれど」     じっとりと、しっとりと、舐るように、愛しげに。     避澄「出たいの……?」     ふふふっと、微笑みながら。  柊  「出られるものならば。」 GM  避澄「本当?」  柊  「・・・皮肉な事に、外から気の早い小鳥の歌が聞こえて来たもので。」     「・・・まだ、埋めて無いのに歌うなんて、気が早すぎますよ。アイツは。」そんな言葉を、誰にも聞こえぬ声で呟いた GM  避澄「……もう一度聞くけれど、ホントに出たい? 出たいのかしら? 柊君が望むのなら、私は手伝うわよ」  柊  「ええ。」 GM  避澄「そう」  柊  「鳥の歌声が聞こえたからには、外に出なくちゃいけませんから。」 GM  するりと、腕を解いて、離れて、     避澄「それじゃ、準備をしてきましょう」     背を向けて、すぃ、すぃ、と歩き始めます。  柊  「そうですか。」背筋を伸ばして、立つ。 GM     と、立ち止まって。     避澄「そうだわ。どうせ出て行くのなら、探している本も無いこの図書室、本当に燃やしちゃいましょうか?」     くいっと振り返って、言います。     なんでもないことを言うように。  柊  「ソレは止めといてください。今読まない本も、何時必要になるか分かりませんから。」 GM  なんでもない、何もかもが、なんでもないみたいに。     避澄「そう? ならそれで。        本はそれ単体でもきっと美しいものだわ。        手垢に汚れて美しい、インクに汚れて美しい、文字に汚れて知識に汚れて、だからこそ美しい」 GM  避澄「♪ 、♪        お母さんに殺されて♪ お父さんに食べられて……♪」     かつ、かつかつ……     と、足音が遠ざかっていきます。  柊  「やれやれ・・・金の鎖も石臼も、持ってこられても困るんですけど・・・」肩をすくめ、苦笑した。 姫巳  (判定中……)→侵食率7%低下。     「・・・」苦笑している柊を、一直線に見据えて、ここで姫巳が部屋に入ります。     「柊、話がある。」  柊  「なんですか?」 姫巳  少し、口調が強張っているのは・・・恐れか怒りか。     「・・・今朝の食事と、僕の所業と・・・鏡原君についてだ。」 GM  ――鏡原。 鏡原――詩織。  柊  「・・・え?」その声に混じったのは、半分は純粋に「不思議」     残りの半分は、「驚き」     「・・・どう言う、意味ですか?」 姫巳  「・・・僕が、卑しいものであることは、話したね。」     「・・・都市伝説の殺人鬼「赤口(ミシャグチ)」は、噂はされても事件にはならない。」     「なぜなら、僕の身体に宿る力が、死体を食べてしまうから。」  柊  「ええ。」 姫巳  「・・・『力』と、僕は感覚が接続している。だから・・・理解できてしまった。伝える暇が無くて・・・すまなかったが。」     「・・・今朝のサンドイッチは、僕には食べなれた味だった、んだよ。」  柊  「・・・ヒトの味、ですか。」 姫巳  「・・・そうだ。あれは・・・」     ここで、柊は気付く。     姫巳は左手に、蓋をかぶせた銀盆を持っている。     「あれは・・・」右手が、銀盆の蓋に添えられ、そして、開けられる。     ・・・銀盆の上には、鏡原詩織の首。 GM  ――  柊  ・・・表情は? 姫巳  血腥くは無い。丁寧に血抜きが施された食用肉のように。 GM  目は、閉じられたまま。ただ――笑っているかのように、見えます。     安堵ではない。     それしか、道が無かったみたいに。 姫巳  ただそれでも、目は死後伏せられ、死化粧が施されている・・・姫巳が使っているのと、同じ。 GM   ――おや、今日の朝食は少し珍しいね。      ――はい、御主人様。良い素材がたまたま手に――入りまして。     朝食時の会話。      ――ふぅん。     それだけだった。       それだけだった。     あまりにも、 それだけだった 。  柊  「・・・」静かに首に近寄り、その頭に片手を載せる。 姫巳  「・・・処置をした時の血の味と同じだ。朝食の肉は、この子の肉。」     銀盆を柊に捧げ、姫巳は言う。 GM    ――神無月君は、一度にたくさんの本を借りるんだね。すぐ、返しちゃうし――  柊  その手は、まるで泣き疲れた子供をあやすかのように。 姫巳  「僕が殺し、口付けで血を拭った、この子の・・・生涯一度、食べたくなくて・・・」     「どうしても食べたくなくて、放置した、死体の肉だ。」 GM    ――もぅ、学校の本の収納数じゃ、柊君にとって、全然足りないんじゃない?―― 姫巳  相対する姫巳は、聖者の首を掲げて踊るサロメ、というには、聊か・・・聊か、何かが欠けていた。 GM    ――私? 私は実は、ほとんど読んじゃったな……小説方面だけだけどさ――  柊  まるで、悲しみを譲り受けるかのように。 GM    ――でも、ずっと読みたい本が、実はあるんだよね――      ……、     ……。  柊  柊は、首を抱きしめても涙は流さなかった。 姫巳  「泣かないのかい?」柊に問う。  柊  「・・・貴方が読みたかった本、きっと見つけます。そして、貴方の為に朗読します。」     呟きが聞こえたとしたならば、恐らくそれは首だけだったろう。     「・・・死は、狂気の夢からの解放にもなる。」     「・・・コイツを『解放』してくれて、ありがとうございました。」     柊が珍しく見せたその表情は、内側に悲しみを閉じ込めた笑顔だった。 姫巳  「・・・責めないのかい?」・・・信じがたい、という表情で、呟く。  柊  「・・・もしも、この件で誰かを責めるとしたら・・・」     「・・・コイツを『狂気』に閉じ込めた、音鍵遺櫃を今は責めたいですよ。」     「・・・ソレに、ココは図書室です。」 GM  それを言っても、何の解決にもならないし、何の決着にもならない。     そう、思いながらも。  柊  「・・・『図書室では静かに』。図書委員の口癖でね。」     そう呟き、柊は自室へと歩く。 姫巳  銀盆はどうする?柊が持っていく?  柊  友人の首を、自らの鞄へと入れる為。     鏡原へのロイス:再逆転     嫉妬→友情 GM  はい。 姫巳  「・・・ああ、ああ・・・っ」サロメになるには、足りなかったか、あるいは、多すぎた部分の存在を、痛いほど感じながら。     銀盆を失った両腕で己の胸を握り潰すようにして、姫巳は突っ伏す。     「君は・・・柊・・・君という子は・・・!」     気付いているのか、居ないのか。「赤口(ミシャグチ)」としての己に皹を入れながら、呟く。     「・・・柊・・・君の本質は・・・あの日と変わらない・・・きっと。どれだけ、外の殻が変わっても。君は、変わってない・・・」     涙が出ないほど、酷く哭く。声も出ないほど、激しく啼く。     (・・・君についていこう。いけるところまで・・・)     柊の葉のトゲを、深く、鋭く、激しく、優しく     その旨に刺して・・・清智姫巳は心に誓った。 GM  声が聞こえる。     笑い声が聞こえる。     神無月柊の耳元で、鏡原詩織の笑い声が聞こえていた。     けれどその声は           あらん限りの哄笑だった。      


               

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